『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』

『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』

原題:“Johnny English Reborn” / 監督:オリヴァー・パーカー / 原案:ウィリアム・デイヴィス / 脚本:ハーミッシュ・マッコール / 製作:ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、クリス・クラーク / 製作総指揮:デブラ・ヘイワード、ライザ・チェイシン、ウィリアム・デイヴィス / 共同製作:ロナルド・バスコンセロス / 撮影監督:ダニー・コーエン / プロダクション・デザイナー:ジム・クレイ / 編集:ガイ・ベンズリー / 衣装:ベアトリクス・パーストル / ヘア&メイク:グラハム・ジョンストン / 音楽:アイラン・エシュケリ / 出演:ローワン・アトキンソンジリアン・アンダーソンドミニク・ウェストロザムンド・パイクダニエル・カルーヤ、ピク・セン・リム、リチャード・シフ、マーク・イヴァニール、伊川東吾、ティム・マキナニー、ウィリアムズ・ベル、スティーヴン・キャンベル・ムーア、イアン・ショウ / ワーキング・タイトル製作 / 配給:東宝東和

2011年アメリカ作品 / 上映時間:1時間41分 / 日本語字幕:石田泰子

2012年1月21日日本公開

公式サイト : http://je-kiyasume.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2012/02/03)



[粗筋]

 かつてはイギリスの諜報組織MI−7のトップ・エージェントであったが、モザンビークでの致命的な失態により解雇されたジョニー・イングリッシュ(ローワン・アトキンソン)は、己の弱さを克服するべく、チベット山中の寺院に籠もって修行を重ねていた。

 彼がイギリスを去ってから5年後、突如古巣からお呼びがかかる。近々予定されている、英中首脳会議を巡って、何らかの企みが進行しており、その情報提供者がイングリッシュを使者に指名したのだ。新たな局長パメラ・ソーントン(ジリアン・アンダーソン)、通称“ペガサス”はイングリッシュの能力に不安を抱くものの、要求に従って彼を香港へと送りこむ。

 若き新米エージェント・タッカー(ダニエル・カルーヤ)を従えて香港に乗り込んだはいいが、彼を呼びつけた元CIAエージェントのフィッシャー(リチャード・シフ)はイングリッシュの目の前で殺害され、手懸かりとなる“鍵”も危うく奪われそうになる。追跡劇の末にどうにかいったんは“鍵”を取り戻すが、けっきょく再度の失態により、“鍵”は奪われてしまった。

 フィッシャーの話によれば、フィッシャー自身を含む3人の人物を中心とする暗殺組織“ヴォルテックス”が中国首相の暗殺のために動いており、“鍵”はそのための秘密兵器を利用するために必要なのだという。“鍵”は“ヴォルテックス”の3人が別々に所持しているらしい。

 モザンビークでの出来事の際、付近でフィッシャーが何者かと話をしていたことを思い出したイングリッシュは、MI−7で行動心理学の専門家として勤めるケイト(ロザムンド・パイク)の協力で退行睡眠を施し、もうひとりがかつてMI−7に協力していたロシア人、アルテム・カルレンコ(マーク・イヴァニール)であることを突き止めると、身分を偽って接触を図る……

[感想]

『Mr.ビーン』でお馴染みとなったイギリスのコメディ俳優ローワン・アトキンソンが、スパイ映画へのオマージュをこめて作りあげたキャラクター、ジョニー・イングリッシュを主人公とするシリーズ第2作である。とは言い条、前作を観る必要は全くない。かく言う私自身、前作を予習することなく鑑賞したのだが、前作を知らない、という事実がまったく気にならなかった。まず、シリーズものでありながら完璧に単独で成立する内容にしている、そのこと自体賞賛に値する。

 本篇のもうひとつの美点は、スパイ映画に関する造詣、或いはイギリス産コメディのお約束といった、マニアックな知識を持たなくとも愉しめるギャグが主体である、ということだ。笑いのほとんどは動きによって仕掛けられてくるので、極端な話、会話をさほど気にしなくても笑いを誘われてしまう。ビルの屋上や壁を行き来する追跡劇のくだりの見せ方、とんでもないものを用いたカーチェイス、そしてクライマックス、雪山の要塞での推移などがその最たるものだ。

 それでいて、きちんと構成を考慮した、知的な笑いも仕掛けている。チベットでの意味不明の修行があとあとまで効果を上げているのもそうだし、“ヴォルテックス”と呼ばれる組織よりもプロフェッショナルな仕事人ぶりを見せる東洋人女性の暗殺者の扱いなどは絶妙だ。これらが、基本的にはしっかりとしたスパイ映画らしいプロットの上に描かれているのだから、唸らされる。

 しかし、率直に言えば、少々こぢんまりと纏まってしまった感は否めない。スパイ映画、アクション映画らしいガジェットをことごとくギャグ調に変換する徹底ぶりは賞賛に値するが、あまりに丹念に仕込んでいるわりに振り切れた描写がないので、突出したインパクトを与える場面が少ない。クライマックスでの見せ場がシンプルな肉弾戦と、ローワン・アトキンソンのひとり芝居だ、というのは、この作品の基本理念に添っているとは言い条、やはり物足りなさは禁じ得ない。どうせスパイ映画をベースにするのなら、クライマックスの派手さ、力強さまで見事にパロディとして昇華して欲しかった。

 また、鑑賞前に触れた感想では、随所で場内に笑いが溢れた、という表現をしばしば目にしたが、私が観た回ではそれほどでもなかったし、笑いは湧いたが爆笑と言えるほどではなかった。笑いに限らず、嗜好は人それぞれで、たまたまあまりハマらない人が集まってしまったのだろうが、そこまで絶対的なパワーを持ち得なかったことだけは言い添える必要があるように思う。

 と、個人的には決して全面的に肯定はしづらいのだが、しかし大いにハマるかはともかく、コメディを観た、という愉しさと満足感をある程度は確実に味わわせてくれるクオリティは間違いなく備えている。勢いまかせのノリでもなく、決して穿った面白さばかり追求しているわけでもない、本当に工夫を感じさせるコメディに飢えているというなら、観ておいて損はない作品である。

関連作品:

ラットレース

スクービー・ドゥー

ゲット スマート

007/慰めの報酬

ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル

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