『ジュリア』

『ジュリア』 ジュリア [DVD]

原題:“Julia” / 原作:リリアン・ヘルマン / 監督:フレッド・ジンネマン / 脚本:アルヴィン・サージェント / 製作:リチャード・ロス / 製作総指揮:ジュリアン・デロード / 撮影監督:ダグラス・スローカム / プロダクション・デザイナー:ジーン・キャラハン、カルメン・ディロン、ウィリー・ホルト / 衣裳デザイン:アンテア・シルヴァート / 編集:マルセル・ダーラム、ウォルター・マーチ / キャスティング:マーゴット・キャパリア、ジェニア・レイサー、ジュリエット・テイラー / 音楽:ジョルジュ・ドルリュー / 出演:ジェーン・フォンダヴァネッサ・レッドグレーヴ、ジェイソン・ロバーズ、マクシミリアン・シェル、ハル・ホルブルックメリル・ストリープ、リサ・ペリカン / 配給&映像ソフト発売元:20世紀フォックス

1977年アメリカ作品 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:岩本令

1978年6月17日日本公開

2010年2月26日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series1 赤の50本》上映作品

TOHOシネマズみゆき座にて初見(2011/12/03)



[粗筋]

 1930年代、リリアン・ヘルマン(ジェーン・フォンダ)は行き詰まっていた。同居するパートナーであり、偉大な作家として知られるダシール・ハメット(ジェイソン・ロバーズ)の薦めで戯曲を執筆しはじめたはいいが、なかなか筆が進まない。ハメットは、執筆を止めるか、いっそ環境を変えるべきだ、と提案する。パリなら、リリアンの親友ジュリア(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)もいる。

 確かにリリアンにとって、ジュリアは重要だった。幼い頃から親しく、何事にも肝が据わっていて凛とした美しさを備えるジュリアは、リリアンにとって憧れであり、かけがえのない存在だった。

 だが、オックスフォード大学でともに学んだあと、ジュリアはフロイトに師事するためウイーンに渡ってしまう。折しもヨーロッパはドイツを起点にファシズムが台頭、もともと強い信念の持ち主だったジュリアは反ファシズム運動に手を染め、連絡は滞りがちになっていた。

 スランプからの脱却と、ジュリアにどうにか接触したい、という想いから、リリアンはハメットの提案に従ってパリへと赴く。いちどは電話がかかってきたが、雑音が多くまともに会話にならず、ろくに所在も掴めぬまま通話は途切れてしまった。

 ようやくジュリアの所在が判明したのは、それから更にしばらくあとのことだった。彼女は運動の果てに重傷を負い、ウイーンの病院に収容されているのだという。ユダヤ人のリリアンにとって、当時のオーストリアは極めて危険であったが、リリアンは居ても立ってもいられずに、現地へと向かった――

[感想]

 意図してそういう順番にしたわけではないのだが、ちょうど本篇のひとつ前に鑑賞した『ウィンターズ・ボーン』と、奇妙に重なって見える作品である。

 時代背景は第二次世界大戦、舞台はヨーロッパが中心である本篇に対し、『ウィンターズ・ボーン』はミズーリ州のごく狭い範囲の出来事を描いているが、両者ともに女性目線の物語である。どちらも謎を扱っているが、必ずしも明確な解答は示されない。そして、どちらも“強い女性”の姿が描かれている。

 切り分けとしてはかなり乱暴だが、実際に続けて鑑賞すると、その手応えは本当に近い。本篇にはいわゆるハードボイルド小説の原点とも言うべき存在、ダシール・ハメットが登場するが、だから、というわけではないだろうに、本篇にはハードボイルド的な味わいがある。序盤はハメットとの一風変わった関係性と、幼少時に始まるジュリアとの交流を繊細に描いているが、その表現さえどこか硬質で凛としている。

 それは恐らく、語り手であるリリアンの怒りっぽく妥協を良しとしない性分と、物語の芯となっているジュリアの言動に、揺るぎがないからだろう。特に、決して出番が多くないジュリアの、心を許す友人にさえ決してすべてを明白にしようとしない、徹底した姿勢が、物語にとって謎と緊張感を生むと共に、彼女の決意の固さ、心の強さを印象づける。

 どちらかと言えば感傷的でさえある前半と、にわかにスパイ映画じみたサスペンスの展開される後半とで、別物になってしまったようにも思わせる本篇だが、しかし手触りが激変するわけではないのは、そこに描かれた意志は一貫しているからだろう。

 徹底しているからこそ、パリからベルリンを経由してソビエトへと向かう道程がサスペンスとして成立する。リリアンの安全を気遣いながらも、己の役割を果たすために安易に姿を現すことをしないジュリア、そんな彼女にある程度は思惑通り動かされていることを承知しながらも、彼女の指示を守りジュリアのもとへと辿り着こうとするリリアン。緊迫感に満ちながらも、そうして巧みに高められた興奮は、クライマックスで静かな感動へと昇華する。

 決してハッピーエンドではないが、その締めくくりにも変わらぬ意志の炎がちらつく。表面的なテーマは女性ふたりの絆を描くことにあるが、最後まで透徹された力強さが、さながらハードボイルドのような印象を齎す所以だろう。

関連作品:

いつか眠りにつく前に

ウィンターズ・ボーン

追憶

ビューティフル・マインド

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