『ヤング・ゼネレーション』

ヤング・ゼネレーション [DVD]

原題:“Breaking Away” / 監督&製作:ピーター・イエーツ / 脚本:スティーヴ・テシック / 製作補:アート・レヴィンソン 撮影監督:マシュー・F・レオネッティ / 美術:パトリツィア・フォン・ブランデンスタイン / 舞台装置:リー・ポール / 衣裳:ベッツィー・コックス / 編集:シンシア・シャイダー / キャスティング:ジェーン・ファインバーグ、マイク・フェントン / 音楽:パトリック・ウィリアムズ / 出演:デニス・クリストファー、ダニエル・スターン、デニス・クエイドジャッキー・アール・ヘイリー、ポール・ドゥーリィ、バーバラ・ハリー、ロビン・ダグラス、ハート・ボックナー、エイミー・ライト、ジョン・アシュトン、P・J・ソールズ / 配給&映像ソフト発売元:20世紀フォックス

1980年アメリカ作品 / 上映時間:1時間41分 / 日本語字幕:岡枝慎二

1980年4月12日日本公開

2010年2月26日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series2 青の50本》上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/11/21)



[粗筋]

 デイヴ(デニス・クリストファー)たち四人は、高校を卒業したものの、まだ進路を決めあぐねていた。マイク(デニス・クエイド)はこのままでも満足、という態度を装っているが、同じ町にある大学の生徒たちが、自分たちの溜まり場である石切場跡の水たまりに現れると、心穏やかではいられない様子だった。

 デイヴは近頃、自転車とイタリアにハマっている。町のレースでやすやすと優勝を勝ち取り、イタリア語を熱心に学ぶ姿に、かつて石工だった父親(ポール・ドゥーリィ)は苦い顔をするばかりだった。

 地元民と大学生たちとのあいだには、ちょっとした緊張感が漂っている。大学生たちは地元の若者を“カッターズ”と呼んで蔑み、マイクらも彼らに対して敵愾心を抱いていた。あるときマイクたちは学生専門の店に上がり、先日石切場に踏み込んだロッド(ハート・ボックナー)たちといざこざを起こしてしまう。役所は彼らに、もっと健全なことで競い合うように諭し、間もなく開催される自転車の100マイルレースにマイクたちも参加するように提案した。

 自転車競技の経験がないマイクたちにとって、頼りはデイヴひとりであったが、当人はイタリア人を装って親しくなった大学生キャサリン(ロビン・ダグラス)と、イタリア人チームを招いて行われる別のレースに夢中になっていた。小さなレースでは優勝を経験しているほどのデイヴは、優勝候補のイタリア人チームとも拮抗する実力を示すが、しかしそこで苦い経験をすることとなる……

[感想]

 日本ではあまりヒットしなかったが、本国では高い評価を受け、のちにテレビドラマシリーズも製作されている人気作である。実際に内容に触れてみると、それも頷けるように思う――『アメリカン・グラフィティ』も日本人には馴染みのない青春像だったが、本篇は更にアメリカ的で、多少なりともあちらの教育制度や地域社会の作りに知識がないと親しみづらい。

 ただ、観ていれば背景はだいたい察しがつくはずだ。アメリカでは夏頃に卒業・進学があり、少なくとも本篇の舞台となっている土地では、このモラトリアムのあいだに進学や就職を決断する余地がある。本篇はほぼ、このモラトリアムのあいだの出来事に絞って綴っている。

 そして、この物語の大きな鍵は、何代にも亘ってこの地に根を下ろす人々と、最近新設された大学に進んだ学生達との、生活観や価値観の差違にある。

 視点はほぼ地元の住民達に集約されていることもあり、それは主に労働に携わる住民達が、知識層に対して抱く劣等感、という形で表出している。マイクのように表面的に強気な若者は、目の前に学生達が現れると敵愾心を剥き出しにするが、実質的な主人公であるデイヴや控え目な性格のシリル(ダニエル・スターン)、“チビ”呼ばわりされないあいだは穏やかなムーチャ(ジャッキー・アール・ヘイリー)の態度は卑屈だ。自分たちは、選良である学生達には敵わないし、彼らのようになれる、とはほとんど考えていない。

 だが、実はこのあたりが、よそ者の目には実感の湧かないところだろう。大学には家柄、財産のあるなしに拘わらず入ることが出来るし、作中の描写ではデイヴははじめから大学に進むのに充分な学力があり、そして進学する必然性もあるのに、何故か終始躊躇っている。そこには、学力の問題ばかりではなく進学の困難な仲間たちに対する遠慮もあれば、共同体のなかに蔓延る“自分たちと大学生たちとは別物”という固定観念が絡んでいるようにも読み取れる。実際にそうした状況に身を置いていないと直感的に掴みづらい、そうした心情的背景の厄介さが、日本では受け入れられなかった一因と思われる。

 しかしここまで読み解くと、あとは非常にシンプルで明快な内容だ。人は成長していくうえで、いずれ仲間とも訣別する時が訪れるであろうし、しばしば鎖のように頑強に感じられるしがらみも、実際にはさほど厳しい縛りではない。本篇はそこに至る道程、モラトリアムからの脱却を穏やかで、堅実な語り口で描いているのだ。

 絶妙なのは、主人公となるデイヴがイタリアにかぶれている、という設定である。中盤での一風変わった行動の契機ともなっているが、このイタリアに対する憧れが、ひとつの出来事によって破られることで、彼の失意がいっそう鮮明になっている。

 もうひとつ忘れてはならないのは、デイヴの父親の存在だ。頑迷な家長の象徴的な振る舞いで、最初のうちは息子のイタリア狂いに絡んだ部分でユーモラスな言動をしつつも基本的に憎まれ役であったのが、息子の変化に合わせて異なった表情を見せる。最終的にいっそキュートにさえ見えるのは、俳優の演技力が寄与するところも大きいだろうが、父と息子が共鳴していくさまを、見事に追っていった筆捌きの巧みさをも証明している。

 如何に地元では強豪として鳴らしていたにしても、自転車選手としてのデイヴに力がありすぎる、という点に少々疑問を覚えなくもない。だが、だからこそ自転車競技の経験のない仲間たちにも出番が与えられ、それぞれのドラマを昇華させるきっかけにもなっている、シナリオの緻密さは評価すべきポイントだろう。恐らく時間を共有することの出来る最後のこのひとときに、彼ら全員で何かを成し得た、という手応えが、クライマックスの清々しい感動に結びついている。

 エピローグの、なかなかに気の利いた趣向に至るまで、シンプルで手堅くも、いい味わいを醸しだした秀作である。公開されたあとに評判を呼んで、根強い人気を誇るようになったのも当然と思う。

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コメント

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