『カウボーイ&エイリアン』

『カウボーイ&エイリアン』

原題:“Cowboys & Aliens” / 原作:スコット・ミッチェル・ローゼンバーグ / 監督:ジョン・ファブロー / 原案:マーク・ファーガス、ホーク・オストビー、スティーヴ・オーデカーク / 脚本:ロベルト・オーチーアレックス・カーツマンデイモン・リンデロフ、マーク・ファーガス、ホーク・オストビー / 製作:ブライアン・グレイザーロン・ハワードアレックス・カーツマンロベルト・オーチー、スコット・ミッチェル・ローゼンバーグ / 製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、ジョン・ファブロー、デニス・L・スチュワート、ボビー・コーエン、ランディ・グリーンバーグ、ライアン・カヴァナー / 撮影監督:マシュー・リバティーク,ASC / プロダクション・デザイナー:スコット・チャンブリス / 編集:ダン・レーベンタール,A.C.E.、ジム・メイ / 衣装:メアリー・ゾフレス / 音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ / 出演:ダニエル・クレイグハリソン・フォードオリヴィア・ワイルドサム・ロックウェル、アダム・ビーチ、ポール・ダノ、ノア・リンガー、アビゲイル・スペンサー、バック・テイラー、クランシー・ブラウン、クリス・ブラウニング、アナ・デ・ラ・レゲラキース・キャラダイン、ブレンダン・ウェイン、トビー・ハス、ウォルトン・ゴギンズデヴィッド・オハラ、フリオ・セサール・セディージョ / 配給:Paramount Japan

2011年アメリカ作品 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:戸田奈津子

2011年10月22日日本公開

公式サイト : http://www.cowboy-alien.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2011/11/08)



[粗筋]

 目醒めたとき、男(ダニエル・クレイグ)は一切の記憶を失っていた。荒野に倒れ、左腕には謎の腕輪が嵌っている。混浴しながらも、男は襲いかかってきた荒くれ者を一瞬で返り討ちにすると、服や持ち物、馬を奪い、ほど近くにあった町・アブソリューションに身を寄せる。

 かつては金鉱の存在が期待され栄えていたその町は、しかし今やダラーハイド家による牛の売買で辛うじて食いつなぐ、寂れた有様になっていた。家長カーネル・ウッドロー(ハリソン・フォード)の威光を笠に着て威張り散らしていた息子パーシー(ポール・ダノ)は男にまで突っかかってきたが、パーシーの地位など知るよしもない男は傍若無人なその若者を1発で伸して、保安官タガート(キース・キャラダイン)に引き渡してしまう。

 だが、保安官は間もなく酒場に舞い戻った。事務所には、男の似顔絵とともに、男のジェイク・ロネガンという姓名と、彼にかけられた懸賞金が記されていたのだ。罪状は放火に強盗、そして殺人――その単語を耳にした瞬間、男の脳裏に朧な記憶が蘇る。しかし、拘束されるのを嫌い、保安官たちを薙ぎ倒していた男は、だが途中で背後から一撃され昏倒、あえなく保安官事務所の牢に放り込まれてしまった。

 タガート保安官は、パーシー共々、男を連邦保安官に引き渡すつもりでいた。だが、その直前にカーネル・ウッドローが現れた。放恣な息子が捕えられたことよりも、タガートに面子を潰されたことに憤るカーネル・ウッドローと保安官たちのあいだに緊張が漲る――しかし、その空気は、まったく予想だにしなかったものの到来で吹き飛ばされた。

 夜空の奥から、にわかに襲来した光と、そして光線。アブソリューションの町のほうぼうから火の手が上がり、悲鳴が轟いた。空から放られたロープのようなもので人々が攫われ、なすすべもなく逃げ惑うなかで、ただひとり冷静さを失わなかったのは、記憶を失っているはずの男であった……

[感想]

 これほど強烈なタイトルというのも珍しい。かたやかつて映画界を支えた一大ジャンルのメイン・キャラクター、対するもう一方も、1980年代以降絶えず新作の生み出されている人気のモチーフである。だが普通なら融合することなど思いつきそうもない題材であるだけに、どんな化学反応が起きるのか、妙に期待してしまう人も多いだろう。かく言う私もそんなひとりで、公開を心待ちにしている1本だった。

 だが、率直に言えば、タイトルがあまりに強烈すぎた、という気がする。どうにも物足りなさが禁じ得なかった。

 勘違いしていただいて欲しくはないのだが、決して不出来な作品ではない。むしろ、一見したところ水と油になりそうなこのふたつの題材を絶妙に混ぜ合わせ、ほぼ完璧に仕上げてきている。

 序盤はほぼ正統派西部劇の趣である。主人公である男の腕に奇妙な腕輪が嵌っていることを除けば、名無しの謎めいた男が、力のある一家によって支配された集落に踏み込んで、トラブルを巻き起こす……というオーソドックスな筋を、堂々たる筆致で描き出している。本当に、腕輪のパーツがなければ、そのまま真っ当な西部劇にも纏められそうな手捌きだ。

 だが、ここでいきなり未知の飛行物体の襲撃があり、一気に異様な方向へと話が動き始める。オーソドックスな西部劇の住人たちが次から次へと蜘蛛の糸めいたもので空中へと攫われていく光景は悪夢じみているが、だがよくよく考えるとこのあたりの描写は、製作総指揮にも加わっているスティーヴン・スピルバーグ監督による『宇宙戦争』あたりにも近い発想であり、それが西部劇のなかで暴れ回っていることを考慮から外せば、いっそ定番通りなのだ。

 下手をすると、こうした“宇宙人襲来”のモチーフが西部劇のムードを一掃しかねないところだが、しかし本篇は絶妙な匙加減でこれらを両立させている。襲撃者によって攫われた住人たちを救い出すべく、唯一対抗しうる力を持った男を中心に討伐隊が組まれ、先々で強盗団やネイティヴ・アメリカン(作中では潔く“インディアン”と言い切っているが)と遭遇する、といったあたりは西部劇の基本を守っている。

 一方で、異星人の捉え方も、19世紀あたりに設定された時代背景と矛盾したり、逸脱したりしない範囲で繊細に考慮が施してあり、ジャンルの愛好家でも納得がいくはずだ。戦闘機から落ちた異星人が痕跡を残していったことで、西部劇でもしばしばトレーサーとして活躍するインディアンが力を発揮し、その所在に迫っていく。異星人たちの科学力からすれば、西部劇の世界に暮らす人々は原始的極まりない文明を築いているに過ぎないが、だからこその侮りに乗じて奇襲を繰り広げる、という終盤の展開は、両者の面白さを巧みに吸いあげている。

 こういった具合に本篇は、西部劇と異星人襲来SFの良さを、完璧に近いレベルで融合している。だが問題は、この魅惑的すぎるタイトルが観客に期待させるのは、もっとB級臭の強い、いっそ攻撃的な趣向である可能性が高い、ということなのだ。

 どうせカウボーイが異星人と戦うなら、連射や早撃ちといったガンマンの技巧やダイナマイトのような力業で挑んで欲しい、と思うし、逆に異星人側がこうしたルールに則って決闘に臨むようなシチュエーションも欲しくなる。本篇はそういう刹那的な欲求に与していないので、どちらのジャンルから眺めても正統派の風格を醸しているが、尖ったインパクトを残さない。時代背景や異星人の設定など、緻密に考え抜かれ矛盾を来していない代償として、あまりに整いすぎてしまった印象なのだ。

 純粋な西部劇、異星人襲来SFを求めている人はそもそも題名の時点で見向きをしないだろうし、鑑賞したとしても混ざりものが多いと否定的な感想を抱くだろう。そして題名で強い興味を覚えた人にとっては、あまりに綺麗に仕上がってしまっていることに不満を覚える。

 だから、本篇の最大のミステイクは、実は魅惑的すぎた題名そのものである、と思う。変な思い込み、思い入れを抜きにして、素直に鑑賞することが出来れば、西部劇と異星人襲来SF、双方の良さを完璧に近いレベルで調和させた、優れた娯楽映画に仕上がっていることに気づくはずだ――だからこそ、心の底から惜しい、と言うほかない。

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