『羊たちの沈黙』

『羊たちの沈黙』 羊たちの沈黙 [Blu-ray]

原題:“The Silence of the Lambs” / 原作:トマス・ハリス / 監督:ジョナサン・デミ / 脚本:テッド・タリー / 製作:ロン・ボズマン、エドワード・サクソン、ケネス・アット / 製作総指揮:ゲイリー・ゴーツマン / 撮影監督:タク・フジモト / プロダクション・デザイナー:クリスティ・ジー / 編集:クレイグ・マッケイ / キャスティング:ハワード・フューアー / 音楽:ハワード・ショア / 出演:ジョディ・フォスターアンソニー・ホプキンス、スコット・グレン、テッド・レヴィン、ブルック・スミス、アンソニー・ヒールド、キャシー・レモンズ、ダイアン・ベイカー、フランキー・フェイソン、ダン・バトラー / 配給:Orion Pictures×Warner Bros. / 映像ソフト発売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント

1990年アメリカ作品 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:進藤光太 / PG-12

1991年6月14日日本公開

2010年7月2日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

第1回午前十時の映画祭(2010/02/06〜2011/01/21開催)上映作品

第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series1 赤の50本》上映作品

初見時期不明

TOHOシネマズみゆき座にて再鑑賞(2011/07/01)



[粗筋]

 FBI捜査官候補生クラリススターリング(ジョディ・フォスター)は、その成績の優秀さを見込まれ、ジャック・クロフォード主任捜査官(スコット・グレン)から“お遣い”を頼まれる。犯罪者心理を研究するためのアンケートに答えようとしない人物を訪問し、可能であれば調査を、無理でもその様子を報告して欲しい、というのだ。

 その人物は、ハンニバル・レクター(アンソニー・ホプキンス)。精神科医でありながら、多くの人間を殺害し、その肉を貪ったという。極めて知能的で危険なこの男は当然のようにクラリスを軽くあしらったが、同じ死刑囚監房にいる者が不作法を働いた詫びに、モフェットという自分のかつての患者を捜し出すことを条件に、協力に応じると言いだした。

 同じ頃、アメリカ各地で、バッファロー・ビルと呼ばれる猟奇殺人犯が跋扈していた。大柄な女性ばかりを狙って殺害、その皮を剥ぐ、という残忍な手口による被害者は既に5人に及んでいるが、被害者や死体遺棄の場所に共通点が見いだせず、FBIはなかなか容疑者を割り出せずにいる。

 無事にモフェットという人物の謎を探り当てたクラリスに、レクターがこの事件について仄めかしたことから、クロフォードはレクターが何らかの推理を持っているか、或いは容疑者についての情報を隠し持っていることを察し、どうやらレクターに目をかけられているらしいクラリスを、臨時捜査員として起用し続けた。

 だがやがて、状況は急に動き始める。バッファロー・ビルが新たな犠牲者を虜にしたことが判明したのだ。行方をくらましたキャサリン・マーティン(ブルック・スミス)は、マーティン上院議員(ダイアン・ベイカー)のひとり娘だったのである。バッファロー・ビルは犠牲者を痩せさせ、皮が余るようになってから殺害している。キャサリンの命を救うために、残された時間は決して長くなかった――

[感想]

 心理捜査官を主人公としたサスペンス、シリアル・キラーの跳梁を描いたミステリの類はもはや定番と化している感があるが、その端緒を作ったのは間違いなく本篇であろう。

 端緒でありながら、しかしそれでいきなりシリアル・キラーであった人物を探偵役的な位置づけに設定し、そこに新米の心理捜査官を絡めていく、というアイディアを施したことが、本篇の驚異的な点であり、未だにその存在感を失わない所以だろう。

 そして何より、キャラクターの完成度が素晴らしい。生い立ちに悩みを抱えるクラリススターリング捜査官の造形はどちらかと言えば王道であるがゆえに強度を備えているのだが、やはりハンニバル・レクターインパクトは筆舌に尽くしがたい。

 いわゆる連続殺人犯が映画の中で重要な役割を演じることは決して珍しくはなかったが、これほど物言いが知的で、直接的な行動以外のところで不気味さを醸しだす人物は恐らくレクターが初だったのではないか。しかも、単純に提示された連続殺人の謎を解き明かすのではなく、何かを知っていると仄めかして関係者を翻弄し、クラリスに対しては謎を示すという形で手懸かりを匂わせる。そのうえで終盤に見せる脱出劇は、高い知性を閃かせながらも悪魔的で、なまじのモンスターなどよりも恐ろしい。

 ひとりでこれほど多くの役割を担い、作品を支配し尽くすキャラクターはそうそう存在しない。最もレベル的に近い存在である『セブン』のジョン・ドゥは序盤の不在や観念的かつ圧倒的な犯行動機のインパクトのほうが強かったし、現在も製作が続いているアメリカの連続ドラマ『デクスター』はこうした設定を深化させて人気を博しているが、結果として『必殺仕事人』のようになってしまい、ちょっと趣が変わってしまった感が否めない。原点にして、ほぼ頂点と言っていい完成度なのだ。

 と、どうしても本篇について語ろうとすると、レクター博士に重心が偏ってしまうが、しかしもうひとりの連続殺人犯“バッファロー・ビル”のインパクトも決して小さくはない。低くくぐもった声で喋り、仕草はどこか女性的。涸れ井戸に閉じ込めた女性におどおどと接しながら、その悲鳴には耳も貸さず、鏡の前で愉しんでいる姿など、毒々しいオーラを放っている。犯罪者であることを明瞭にし、警戒している人々を相手にいっそ“華麗”と言ってもいい振る舞いを示し目的を果たすレクター博士と比べると小物と感じるのは致し方のないところだが、本篇の揺るぎのない完成度の高さには、間違いなくこの“バッファロー・ビル”が貢献している。

 思うに、レクター博士をより大きく採りあげた後継作品が、文芸的にはともかく、謎解きとしてもドラマとしても何処か物足りなくなってしまった背景には、こういう並立する柱を失ってしまったのが大きいのではないか。そう考えていくと、やはりレクター博士というのは圧倒的な悪役であるのと同時に、彼が狩る、或いは嘲笑する別の犯罪者、悪役があって初めて本当の魅力を発揮するキャラクターなのかも知れない。後継作品『ハンニバル』、『ハンニバル・ライジング』よりも、先行作のリメイクである『レッド・ドラゴン』のほうが面白く感じられるのも、そうした理由によるものと考えられる。

 いずれにせよ、今でも唯一無二の存在感を発揮するハンニバル・レクターというキャラクターの魅力を最大限に発揮した作品であり、後年のサイコ・サスペンスの原型を形作りながら、未だに誰にも越えられない、最高峰の逸品と言っていいだろう。

関連作品:

レッド・ドラゴン

ハンニバル・ライジング

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踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!

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コメント

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