『処刑教室』

処刑教室 [DVD]

原題:“Assassination of a High School President / 監督:ブレット・サイモン / 脚本:ティム・カルピン、ケヴィン・ヤクボウスキ / 製作:ボブ・ヤーリ、ダグ・デイヴィソン、ロイ・リー / 製作総指揮:デヴィッド・O・グラッサー、ブラッド・ジェンケル / 撮影監督:M・デヴィッド・ミューレン,ASC / プロダクション・デザイナー:シャロン・ロモフスキー / 編集:ウィリアム・アンダーソン、トーマス・J・ノードバーグ / 衣装:エイミー・ウェストコット / 音楽:ダニエル・ルッピ / 音楽監修:ライザ・リチャードソン / 出演:リース・ダニエル・トンプソンミーシャ・バートンブルース・ウィリスマイケル・ラパポート、パトリック・テイラー、キャスリン・モリス、メロニー・ディアス、ジョシュ・パイス、ルーク・グライムス、アーロン・ヒメルスタイン、ジョー・ペリノ、ロビン・ロード・テイラー、ヴィンセント・ピアッツァ、ゾーイ・クラヴィッツ、ザカリー・ブース、ジョン・マガロ / ボブ・ヤーリ/ヴァーティゴ・エンタテインメント製作 / 配給&映像ソフト発売元:FINE FILMS

2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間32分 / 日本語字幕:?

2011年4月2日日本公開

2011年6月3日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

公式サイト : http://www.finefilms.co.jp/syokei/

DVD Videoにて初見(2011/06/27)



[粗筋]

 セント・ドノヴァン高校では奇妙な事態が起きている。共通テストで、複数の人間が同じ解答を書いているのだ。何らかの不正が起きていると睨んだボビー・ファンク、通称“ファンキー”(リース・ダニエル・トンプソン)は、新聞部の部員として記事にすることを目論む――報道セミナーに参加する権利を得るために。

 だが幽霊部員である彼に、自由に記事を書く権利が与えられるはずもない。部長のクララ(メラニー・ディアス)は代わりに、生徒会長のポール・ムーア(パトリック・テイラー)の密着記事を書くように指示する。

 そんな矢先、カークパトリック校長(ブルース・ウィリス)の部屋から共通テストの答案用紙が盗まれる、という事件が起きる。不良のリストに名前を挙げられていたファンキーは他の5人と共に呼び出され、疑いを晴らすために調査に乗り出した。

 当初はファンキーも、他のリスト入りしている生徒を疑ったが、全員が明白なアリバイを備えている。そこでボビーは、いわゆる優等生も容疑者に含めることにした。彼が疑惑を抱いたのは――ポールだった。

 調べてみると、ポールには疑わしい部分が多かった。事件当夜、バスケットボールの試合で怪我をして保健室に運ばれたが軽傷、そのあいだひとりになっている。そして彼は名門大学への進学を志していた。動機も状況証拠もあることから、ファンキーはおべっかの記事を捨て、彼を告発する記事を執筆する。

 記事は学校にセンセーションを巻き起こした。その告発を受けて、校長がポールのロッカーを改めると、盗まれた解答用紙がぎっしりと詰めこまれている。ポールは無実を訴えるが、聞き入れる者はなかった。

 学校内で馬鹿にされていたファンキーはこの1件で一躍ヒーローとなる。学校のマドンナ的存在であり、もともとはポールの恋人だったフランチェスカ(ミーシャ・バートン)から、「他に相手がいなくなった」とパーティにも誘われ、ファンキーは有頂天だった。

 だが直後、意外な事実が判明する。ポールは既に志望校の推薦を勝ち取っており、わざわざ解答用紙を盗んでまで成績を上げる必然性はなかったのだ。ファンキーは改めて調査を始めるが……

[感想]

 この作品、日本で劇場公開されたときに、邦題のイメージと内容があまり一致していないことで不興を買っていたが、しかし上映終了後にDVDで鑑賞した私は、さほど違和感を抱かなかった。

 というのも、本篇を鑑賞しながら私は、法月綸太郎の小説『密閉教室』を連想したのだ――と言って解る人がどれほどいるかは不明だが、ごくざっくりしたイメージで語ると、学校という閉鎖空間にハードボイルド、私立探偵小説の主人公を放り込んだ作りが似ているように感じられるのだ。案外、邦題をつけた人は本当に『密閉教室』を意識したのでは、と本気で疑っている。さもなくば、もう少し違ったタイトルを選んだように思えるのだ。

 とはいえ、普通に考えれば暴力的な内容を想像させる邦題だが、作中流血沙汰は皆無に等しく、暴力沙汰もほとんどない。上下関係や学校内に存在するルールに基づいた強迫的なムードはあり、まさに“処刑”と呼べるくだりはあるので、邦題が絶対的に間違っているわけではないが、やはり少し強すぎるタイトルと言えよう。

 しかしそのあたりを抜きにして、なるべく先入観なしで鑑賞すると、本篇の意図するところはハードボイルドのパロディだ、ということに気づくはずだ。

 主人公ファンキーの振る舞いは、ほぼハードボイルドの主人公そのものと言っていい。やたら得意げな言動、自らのスタイルをさもポリシーがあるように装う様など、舞台が異なり、きちんと価値観が固まっている者がやっていれば、充分に格好いいはずだ。だが、同じことを敢えて人間性の固まっていない、しかも高校生にやらせているので、ほぼ全てがユーモアになっている。

 この作品の勘所は、社会で起きる様々な出来事が、ほぼ何もかも学校のなかに収まっていることだ。権力闘争に裏取引、ゴシップの蔓延に、“刑務所”と呼べる空間さえ用意されている。それらが外界の、実際に大きな影響を持つ力や出来事と絡みあって、登場人物たちをどこか奇妙な行動に走らせる、その可笑しさがいちばんの魅力だろう。ここを汲み取れないと、恐らく最後まで乗れないままで終わる。

 一方で、ドラマとしても謎解きとしても、きちんと芯が通っているのに唸らされる。人物の立場が目まぐるしく変わりながらも、その言動にはちゃんとリアリティが感じられるし、ミステリのパロディとしても青春ドラマとしても納得のいく表情の捉え方をしている。主人公の推理は少々直感や連想に依存しすぎているきらいはあるが、伏線の組み立てがしっかりしているので受け入れやすく、クライマックスまでの筆運びも巧みだ。カメラワークを駆使して、さり気ない描写がそのままラストで意外性の演出を手伝っているあたりの配慮もいい。

 演出のテンポの良さ、映像にもセンスが滲んでいる。個々のパーツはむしろ普遍的なのだが、その組み合わせと描き方に独創性を感じさせる、シンプルなようでいて端倪すべからざる秀作である。

 ところでこの作品、批判する意見でときおり目にするのが、校長先生をブルース・ウィリスが演じていることにあまり意味がない、という点だ。

 しかし私は、彼が演じた意味は充分にある、と思う。本篇は舞台が高校、主要登場人物もすべて十代であるため、どうしても若い俳優が中心になる。ある程度演技力を求めるとなれば、スター性のある若手よりは、無名の俳優のほうが多く起用されてしまうのが当然だ。そうすると、映画の概要や予告篇の魅力に惹かれて足を運ぶような人はともかく、話題性を重視するような観客はあまり食いつかない。

 だが、そこにブルース・ウィリスのような大物がひとりいれば話は別だ。彼の名前に惹かれて観に来て、出番のなさに失望する人もあるだろうが、純粋にストーリーを楽しんでくれる人もいるはずだろう。

 恐らくはブルース・ウィリス自体も、そういう役割であることを充分に認識して本篇に出演していたと思われる。自らの出演するシーンではきちんと存在感を発揮しながら、それ以上出しゃばっていないのは、むしろいい仕事であるし、彼の扱いで匙加減を保っている監督のバランス感覚も優秀だ。

 ブルース・ウィリス自身の活躍を期待するなら、彼の名前を大々的に明記した大作を鑑賞した方が早い。彼が活躍していない、出番が少ないことで不満を感じるようなら、そもそもこういう作品を観るのにあまり合っていないのだと思う。

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