『[リミット]』

『[リミット]』

原題:“Buried” / 監督、製作総指揮&編集:ロドリゴ・コルテス / 脚本:クリス・スパーリング / 製作:エイドリアン・グエッラ、ピーター・サフラン / 製作総指揮:アレハンドロ・ミランダ / 撮影監督:エドゥアルド・グロウ / 美術:マリア・デ・カマラ、ガブリエル・パレ / メイクアップ:モニカ・アラルコン・ヴィルジリ / 衣裳:エリサ・デ・アンドレス / サウンド・デザイナー:ジェイムズ・ムノズ / サウンド・リレコーディング・ミキサー:マーク・オルツ / サウンド・ミキサー:ウルコ・ガライ / 音楽:ヴィクトール・レイズ / 出演:ライアン・レイノルズ、ロバート・パターソン、ジョゼ・ルイス・ガルシア・ペレス、ステファン・トボロウスキ、サマンサ・マティス、ワーナー・ルーリン、イヴァナ・ミーノ、エリック・パラディノ / ヴァーサス・エンタテインメント製作 / 配給:GAGA

2009年スペイン作品 / 上映時間:1時間35分 / 日本語字幕:アンゼたかし

2010年11月6日日本公開

公式サイト : http://limit.gaga.ne.jp/

シネセゾン渋谷にて初見(2010/12/15)



[粗筋]

 ……目醒めたとき、ポール・コンロイ(ライアン・レイノルズ)は闇の中にいた。手探りで見つけたジッポーを灯して、そこが埋葬された棺桶の中だと悟る。

 ポールはCRT社のトラック運転手として、イラク復興のための資材を搬送している途中に襲撃されたのである。テロリストの犯行だと察知するが、棺の中では為す術もない。絶望に吼えたそのとき、狭い棺の中で電話の着信音が響いた。

 捜してみると、そこにはアラビア文字の表示された携帯電話が転がっている。使い勝手が解らないまま、ポールは思いつく限りの番号にかけて助けを求めた。アメリカの911、妻・リンダ、CRT本社、そして国防総省……

 なかなか要領を得ないやり取りを繰り返した挙句、謎の番号から電話がかかってきた。回線の向こうの男は、ぎこちない英語で「兵士か? アメリカ人か?」と問いかけ、こう突きつけてきた。

 期限は今夜9時。要求は500万ドル。揃わなければ、お前はそこから脱出出来ない――

[感想]

 とにかくまず、発端となる発想が振るっている作品である。ある特殊な、表現の幅が狭められる状況の映画、というものは多々あるが、ここまで本当に狭い範囲で繰り広げられる作品は多分例がないと思われる。窓から見える光景を軸にサスペンスを構築した『裏窓』も本質は極めて規模の大きいセットで撮影されていたし、奇妙な状況での“ゲーム”を描いた『SAW』は冒頭こそ密室内だが物語ははじめから外に広がっていた。最近の話題作『パラノーマル・アクティビティ』が最も限定的な状況を扱っていると言えそうだが、あれも家一軒に、メイン2人以外に何名かの登場人物が絡んで、それなりの広がりがあった。

 対して本篇は、本当に終始、棺の中でだけで物語が展開する。てっきり少しは外の様子が描かれるものだと想像していたら、ほぼゼロに近い。実のところ間違いなく1箇所だけ外の様子が撮影されているのだが、作中の携帯電話に届けられる動画なので、観客の眼代わりとなるカメラは間違いなく棺の中しか撮っていないのだ。

 それだけで話が維持出来るのか、と訝しく思うが、見事に牽引力を保っている。狭い棺の中ながらも、話の進行に合わせて確認出来なかったアイテムが登場して主人公のリアクションを引き出すこともそうだが、中に携帯電話を持ち込み、外側と細い繋がりを残すことによって、事態に変化を齎している。その出し入れのタイミングが絶妙で、完全なる密室、他の登場人物はほぼ声だけしか出て来ないというのに、見事なサスペンスが醸成されている。

 しかも、この趣向で終盤に意外性を演出しているのが見事だ。提示されるアイテムの扱いが巧妙で、観る側の注意を巧みに一方に惹きつけておいて、終盤、別の要素が忽然と蘇って、衝撃を与えてくる。まったく身動きが出来ないのに、安堵と危惧、希望と絶望が交互に迫り来るさまに惹きこまれ、あとで顧みて、その絶妙な手管に舌を巻くほどだ。

 そのうえ、ヒッチコックのようなサスペンスを意識して作りあげながら、物語を動かす要素がことごとく現代的であるのが出色なのだ。このシチュエーション自体が、携帯電話なくして成り立たないこともそうだが、舞台が混沌とした情勢を引きずるイラクであることも非常に効いている。犯人の設定だけでなく、終盤で棺に生じる変化の鍵も握っているし、とりわけ思わぬ方向から主人公を絶望に追いやる或る出来事も、世情が反映されている。

 気懸かりは結末である。それまでの展開を楽しんだ人でも、好みによってはこの終幕に納得のいかないものを感じるかも知れない。ただそれさえも、途中の何気ない描写が、結末の印象をより深めるように細工が施されており、少なくともスタッフたちの狙いに一切狂いがないことは解るはずだ。

 ラストに何を感じるかで評価は割れるだろうが、少なくともきっかけと、そのアイディアを存分に活かしきった点で、サスペンス映画として優秀な仕上がりであることは間違いない。携帯電話やライターなど、登場する光源を巧みに切り替え、棺自体も複数用意することで、映像の変化にも気遣っており、こんな小理屈を抜きにしても、楽しめること請け合いの1本である。

関連作品:

ウルヴァリン:X-MEN ZERO

スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい

裏窓

SAW

パラノーマル・アクティビティ

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