『シノーラ』

シノーラ 【ベスト・ライブラリー 1500円:戦争映画&西部劇特集】 [DVD]

原題:“Joe Kidd” / 監督:ジョン・スタージェス / 脚本:エルモア・レナード / 製作:シドニー・ベッカーマン / 製作総指揮:ロバート・デイリー / 撮影監督:ブルース・サーティース / 美術:ヘンリー・バムステッド、アレクサンダー・ゴリツェン / 舞台装飾:チャールズ・S・トンプソン / 編集:フェリス・ウェブスター / 音楽:ラロ・シフリン / 出演:クリント・イーストウッドロバート・デュヴァルジョン・サクソン、ドン・ストラウド、ステラ・ガルシア、ジェームズ・ウェインライト、ポール・コスロ、グレゴリー・ウォルコット、ディック・ヴァン・パタン、リン・マータ、ジョン・カーター、ぺぺ・ハーン、ホアキン・マルティネス / ユニヴァーサル/マルパソ・カンパニー製作 / 配給:CIC / 映像ソフト発売元:GENEON UNIVERSAL ENTERTAINMENT

1972年アメリカ作品 / 上映時間:1時間24分 / 日本語字幕:?

1972年10月14日日本公開

2010年8月4日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVDにて初見(2010/12/04)



[粗筋]

 シノーラの街ではだいぶ前から、アメリカの移住民たちとメキシコ人のあいだで、土地の権利を巡る諍いが続いていた。もともとはメキシコ人たちの持つ広大な農場を借り受けたアメリカ人たちが住居を構えたが、やがて役所が建ち裁判所が建ち、所有権を主張し始めたために揉めるようになる。

 存在したはずの権利を証明する書類を否定され、憤ったメキシコ人たちは、ルイース・チャマ(ジョン・サクソン)という男の主導により裁判所に押し入り、アメリカ人たちの権利を証明する書類を焼き払ってしまった。

 このことがきっかけで、土地の所有権を主張していたフランク・ハーラン(ロバート・デュヴァル)が直々にシノーラに乗り込んできた。荒野に潜んだチャマたちを“狩る”ために、ハーランはシノーラの郊外で農場を営み、狩りの経験が豊かなジョー・キッド(クリント・イーストウッド)を雇い入れる。

 折しも暴力事件を起こして懲罰を受けており、チャマ率いる暴徒とのあいだに遺恨もあったキッドは、この依頼を引き受けた。

 だが道中、チャマの居所を口にしなかったメキシコ人の一団を皆殺しにし、キッドに対しても横柄に振る舞うハーランたち一行の態度に、キッドは少しずつ判断ミスを実感する。そして、訪れた小さな集落で、遂に決定的な事件が勃発した――

[感想]

 クリント・イーストウッドの主演作を順に辿っていて、ふと気づいたのだが、彼は本篇に至るまで、いわゆる大物監督と組んだことがない。セルジオ・レオーネはキャリアも長く大作に携わることもあったがハリウッドでの知名度は『荒野の用心棒』まで低かったようだし、『奴らを高く吊るせ!』のテッド・ポストをはじめ、イーストウッドが自らの会社を通して製作に介入するようになって以降は、ほとんどが無名か、生え抜きに近い監督に作品を委ねている。なまじ著名な監督よりも御しやすく、自らの思い通りの映画が作れる、と考えた――というのは邪推が過ぎるだろうか。

 だが、そういう前提のもと想像を重ねると、『恐怖のメロディ』で監督としての実績も得、直前に『ダーティハリー』というヒット作を輩出したことで、ようやく大物監督と仕事をしてみる気になった時期だったのかも知れない。本篇を担当したジョン・スタージェスは『OK牧場の決斗』『荒野の七人』『大脱走』と映画史に名を残す作品を幾つも撮っており、まさにイーストウッドが初めて組んだ、紛う方なき“大物監督”なのだ。この一点だけでも、本篇は特筆すべき作品と言える。

 ただ、そういう予備知識を以て、身構えて鑑賞してしまうと、かなり拍子抜けするだろう。尺も短めなら、内容的にも掘り下げ不足、加えて、あまりに外連味の強すぎる見せ場の数々に、大掛かりなジョークを見せつけられているような、居心地の悪さや不快感さえ催す可能性さえある。実際、クリント・イーストウッド出演作においても、ジョン・スタージェス監督作品という括りの中でも、本篇はあまり重要視されていないようだ。

 しかし、私はこの作品、決して不出来ではないと感じている。確かに、監督と主演俳優だけでなく、脚本担当として『ゲット・ショーティ』や『アウト・オブ・サイト』の原作小説を手懸けたエルモア・レナードまで名前を連ねていることから、大掛かりかつ端整な作品を期待するとかなり物足りないし、モチーフも大味に思えるが、しかし観ているあいだ決して退屈はさせない内容になっている。

 尺の短さは、絶妙に抑制の利いた描写ゆえだろう。決して無駄に語りすぎず、だが不明瞭にならない程度に描写を刈り込み、それをテンポ良く繰り出しているので、いま何が起きているのか、と困惑することなく、最後まで自然に物語の波に乗せられてしまう。あまりに抑制が利きすぎていて、うまく調理すれば味の出そうな脇役が至極あっさりと退場してしまうのが残念に思えるが、その大胆さもひとつの魅力だ。

 大袈裟すぎる見せ場の数々も、だが決して唐突ではないし、そこに至る道筋の組み立ては非常に巧い。他の部分を切り捨てている分、タイトル・ロールであるジョー・キッドの渋い存在感が一連の見せ場で余計に活きているのだ。

 それでもやはり、もう少し脇役の人物像を掘り下げて欲しかった、という嫌味は拭えないし、これといったテーマ性も感じられず、重量感に乏しい、と言わざるを得ない。だが、娯楽映画としての要件は充分に満たした、職人的な手堅さの光る1本である。

関連作品:

荒野の用心棒

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続・夕陽のガンマン

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