『トロン』

トロン [DVD]

原題:“Tron” / 監督&脚本:スティーヴン・リズバーガー / 原案:スティーヴン・リズバーガー、ボニー・マクバード / 製作:ドナルド・カシュナー / 製作総指揮:ロン・ミラー / 撮影監督:ブルース・ローガン / プロダクション・デザイナー:ディーン・エドワード・ミッツナー / 電脳世界コンセプト・アーティスト:シド・ミードジーン・“メビウス”・ジラード、ピーター・ロイド / 編集:ジェフ・ゴーソン / キャスティング:パム・ポリフローニ / 音楽:ウェンディ・カーロス / 出演:ジェフ・ブリッジスブルース・ボックスライトナーデヴィッド・ワーナー、シンディ・モーガン、バーナード・ヒューズ、ダン・ショア / 配給:東宝 / 映像ソフト発売元:BUENA VISTA HOME ENTERTAINMENT

1982年アメリカ作品 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:?

1982年9月25日日本公開

2005年12月21日DVD日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

公式サイト : http://www.disney.co.jp/tron/

DVDにて初見(2010/10/13)



[粗筋]

 エンコム社の開発用システムが、ハッカーの侵入を防ぐという名目で、一時的に稼働を停止した。犯人がかつてソフトウェア開発部門に勤務していたケヴィン・フリン(ジェフ・ブリッジス)であると聞いたアラン・ブラッドリー(ブルース・ボックスライトナー)は、同僚のローラ(シンディ・モーガン)と共にフリンを訪ねる。

 フリンが言うには、現在エンコム社を代表する大ヒットゲームの『スペース・パラノイア』はフリンが開発したものなのだという。だが、現在重役に就いているエド・ディリンジャー(デヴィッド・ワーナー)がネットワーク経由で盗み、自分のアイディアとして提出してしまったのだ。会社を逐われたフリンは、ディリンジャーの犯行の痕跡が残っているはずのメモリを参照するために、ハッキングを繰り返していたのだ。

 事情を知ったアランとローラは、友人の汚名を雪ぐため、システムの再開を促すためにも、とフリンに協力を申し出る。停止中、ネットワークからのアクセスは困難だが、エンコム社の内部からなら潜入は可能のはずだった。さっそくフリン達は、エンコム社に忍びこむ。

 だがそこで、フリンは思いがけない災難に見舞われる。現在、エンコム社のシステムを管理する人工知能プログラム・MCPは、社内で研究されていた物質のデジタル化転送システムを利用し、フリンをコンピュータ・ゲームの世界に引きずり込んでしまう……

[感想]

 全世界のSF愛好家を熱狂させた『スター・ウォーズ』第1作が発表されたのは1977年、最初の3部作が完結したのは1983年である。この作品は未だミニチュアや、目の錯覚などを応用した、いわゆる“特撮”がメインであった。既にコンピュータは少しずつ発達、普及していた頃であったが、大スクリーンで観客を熱中させるほどリアリティと迫力を備えた映像を作り出せる段階には至っていなかった、といういい証左だろう。

 本篇はそういう時期に、果敢にもCGをメインに作りあげてしまったSFアドヴェンチャーである。

 その事実だけでもかなり意欲的な作品と言える。そして、そうしてまだ技術的に大幅に制約が課せられていたなか、許される表現の範囲内で成立するように設定を作り、物語を構築したことは賞賛されて然るべきだろう。だが生憎、トータルでは評価しにくく、人にお薦めしにくい作品になってしまったのは、ひたすらにシナリオの出来が悪いせいだ。

 本篇は現実世界と、いわば“電脳世界”と懐かしい言葉で表現したくなるもうひとつの世界で成立している。“電脳世界”を支配するロジックがいまひとつ不明瞭なのはまだ仕方ないとしても、問題はこの“電脳世界”で何を成し遂げれば、引きずり込まれたフリンが勝利したと判断されるのか、という点が終始明確にされていないことだ。

 過程にディスクを使用した格闘技のようなものや、マシンの軌跡がそのまま障壁となって進行を妨害する特殊な陣取りゲームなど、魅力的なモチーフは随所にあるのに、そのルールが不明瞭なままだから、枠の中で勝利する快感や、死角を衝いて予想外の展開へ導かれるカタルシスも演出できていない。物語全体でも、いちおうフリンがゲームを開発したという証拠を得る、という目的はあるものの、どうすればそれが獲得できるのか、という部分がまともに描かれていないので、何に注目していいのかが解らない。結果として、色々なことが起きているにも関わらず、退屈という印象を与えてしまっている。

 人物の描き分けをまったく意識していないことも、この退屈さに拍車をかけている。フリン以外の“電脳世界”の人物=プログラムたちは、それぞれを開発した、或いは深く関わりのある人物と同じ容姿をしている、という設定だが、そもそも現実でも“電脳世界”でも人物の個性を際立たせたり差別化したりする工夫を凝らしていないので、その面白さも伝わらないどころか、誰に何が起きているのか把握するのも難しい。なまじ、制約の多いCGでの描写を考慮して、背景やスーツなどが単純化されていることを思うと、台詞や行動で人物像を浮き彫りにする必要があったはずなのだが、そこまで考慮が及んでいないのが惜しまれる。

 本作だけであれば、意欲は買えるものの、極めて早くCGを導入した斬新さだけが目立った代物、という評価に留まっただろう。だが、前述の魅力的な要素を惜しんだものか、30年近い時を経て目覚ましく発展したCG技術に、ここに来て一気に普及しつつある3D技術まで導入した続篇『トロン:レガシー』が製作され、どうやら無事に完成に漕ぎつけたようだ。公開は2010年末であるため、判断は出来ないが、その完成度次第では本篇の位置づけも変わるかも知れない。

 いずれにせよ、現段階では、極めて早い時期にCGを導入したということを除けばこれといって価値はなく、私のように「続篇の予習のために」という目的から無理に鑑賞する必要もない、と思う。こういう前提があった、ということを漠然と記憶の片隅に留めておけばいいだろう。

関連作品:

地球爆破作戦

マトリックス・リローデッド

マトリックス・レボリューションズ

クレイジー・ハート

ヤギと男と男と壁と

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