『007/消されたライセンス』

消されたライセンス [Blu-ray]

原題:“Licence to Kill” / 原作:イアン・フレミング / 監督:ジョン・グレン / 脚本:マイケル・G・ウィルソン、リチャード・メイボーム / 製作:アルバート・R・ブロッコリ、マイケル・G・ウィルソン / 撮影監督:アレック・ミルズ / 美術:ピーター・ラモン / 編集:ジョン・グローヴァー / 衣装:ジョディ・ティレン / 視覚効果スーパーヴァイザー:ジョン・リチャードソン / キャスティング:ジェーン・ジェンキンス、ジャネット・ハーシェンソン / テーマ曲:モンティ・ノーマン / 主題歌:グラディス・ナイト / 音楽:マイケル・ケイメン / 出演:ティモシー・ダルトンキャリー・ローウェルロバート・ダヴィタリサ・ソト、アンソニー・ザーブ、フランク・マクレイ、エヴェレット・マッギル、ウェイン・ニュートンデスモンド・リュウェリン、デヴィッド・ヘディソン、プリシラ・バーンズ、ベニチオ・デル・トロ、グランド・L・ブッシュ、ケリー=ヒロユキ・タガワ、ロバート・ブラウン、キャロライン・ブリス、アンソニー・スターク / 配給:UA×UIP Japan

1989年イギリス、アメリカ合作 / 上映時間:2時間13分 / 日本語字幕:?

1989年9月9日日本公開

2009年6月19日Blu-ray Disc日本盤発売 [bk1amazon]

Blu-ray Discにて初見(2010/01/01)



[粗筋]

 イギリスMI6の諜報員ジェームズ・ボンド(ティモシー・ダルトン)は、幾たびも助け合ってきた友人であるCIA職員のフェリックス・ライター(デヴィッド・ヘディソン)の結婚式で付添人を務めるため、アメリカに滞在していた。直前に麻薬王フランツ・サンチェス(ロバート・ダヴィ)の所在が判明し、急遽逮捕に赴くというハプニングに見舞われたが、サンチェスを捕らえることにも成功し、結婚式は盛大に催された。

 だが明くる日、アメリカを発とうとしたボンドは、サンチェスが脱走したことを知り、空港からライターの住居へと走る。そこには、撃ち殺された花嫁と、拷問を受けて瀕死の状態になった友人の姿があった。

 ボンドはライターが身体の一部を鮫の餌にされたと察知し、協力者と共に鮫を収容できる倉庫を探った。すぐにミルトン・クレスト(アンソニー・ザーブ)の経営する倉庫に目をつけ、交戦の末にサンチェスの脱走を手引きした刑事を始末するが、サンチェスの姿はない。

 いったん国外に逃亡してしまったサンチェスを、アメリカの麻薬取締局が拘束する可能性は低かった。そして上司のM(ロバート・ブラウン)からは、新たに下された任務に着くよう命じられたボンドは退職を宣言し、武器を取り上げられそうになったところで逃走を図る。

“00”のコードネームを持つ諜報員にのみ許された殺しの許可証を剥奪され、一私人となったジェームズ・ボンド。彼は如何にして、軍隊並みの手勢を抱えるサンチェスの懐に潜りこむのか……?

[感想]

 長年に亘って継続する大作アクション映画の代名詞的シリーズ“007”の数えて第16作目、歴代4人目のジェームズ・ボンドであるティモシー・ダルトンが主演する2作目である。

 6代目である現在のジェームズ・ボンドダニエル・クレイグと特に縁もない本篇を唐突に鑑賞したのは、内容よりも何よりも、出演者にベニチオ・デル・トロが名前を連ねていたのが理由だ――すっかりこの俳優に惚れ込んでいる身としては若い頃の、たとえ端役であっても、名前を出して出演している作品はいちど観ておきたい、と思っていたのである。最近、レンタルで昔の映画を観るようになったため、以前からリストに加えていたものが、ようやく届いた、というわけだ。

 そういう目的からすると、ある意味では非常に酷い目に遭わされる作品である。出番が少ないことは察していたから別に驚きも失望もしていない。むしろ、僅かな登場ながら既に独特の色気を放っていること、逆に昨今は見たことのないチンピラ然とした、それでいてギラギラした表情が実に興味深かったので、満足は出来る。ただ、去り際にショックを受けるのは避けられない――あれもまた、予想の範囲内ではあるのだが。

 肝心の作品のほうだが、わずか20年とは言い条、作りにはだいぶ古びた印象を受けた。

 CG技術の進歩で表現の幅が大きく広がったアクション映画のジャンルでは、このあとに『マトリックス』が、近年では“ジェイソン・ボーン”シリーズの影響を逃れにくく、他ならぬ“007”シリーズでさえも、ダニエル・クレイグ主演の21作、22作はいずれもリアリティのあるアクションが主体となっている。“007”シリーズが用いていた大掛かりなアクションと派手なストーリー展開は、一部のコメディ、オマージュ作品を除いてあまり見られなくなった。本篇はまさにそのスタイルに則っているため、昨今の作品と比較すると、どうしても新味が感じられなくなるのだろう。

 ただ、派手な娯楽作品を志向しつつも、本篇には幾分のリアリティと重厚感が備わっているように思われる。そこには4代目ボンドを演じたティモシー・ダルトンの持つ雰囲気と、友人の復讐のために任務を離れ、通常以上に過激に振る舞うというプロットが貢献しているに違いない。

 任務、という大義名分があるからこそ生じていた脳天気さと破壊工作の自由度が、ライセンスを剥奪されたことによる悲愴感、そして行動の制約に切り替わっている。それ故に、全般に派手ではあるものの、必死さや強引さと繋がって、思わぬ説得力を備えるに至ったようだ。

 軽々しさを感じさせない佇まいのティモシー・ダルトンがボンドを演じたことも奏功している。この流れの中でふたりの女性から想いを寄せられる不自然さも、彼の貫禄で補っているようだ。個人的な印象だが、彼の演じるボンドは、英国の優秀な諜報員であり、事件で関わった女性から慕われる、という人物像に誰よりも相応しいように思う。このあとのピアース・ブロスナンは甘い雰囲気と立ち居振る舞いという点で、“女たらし”というイメージにはうまく溶け込んだが、ティモシー・ダルトンのような重厚感にはやや欠いているのだ。無論ブロスナンも、ボンド役のひとつの理想型を築きあげたが、ダルトンのほうがより大人のアクション映画、という趣を実現している。

 成功しているとは言い難いものの、事件の展開にひねりを加えているのも好感が持てるところだ。敵方もボンドも、それぞれに策を弄して相手の虚を衝こうと試み、それが物語に謎と奥行きを生んでいる。惜しむらくは描写が足りずにあちこちで舌足らずとなり、恐らく製作者が意図していたほどに効果を上げなかったことだが、少なくとも悪い印象は受けない。

 やや尺が長めでもっさりした手触りがあるのも、スピード感を第一とする近年の傾向と比較するとやはり見劣りがするが、その分アクション同士の繋がりは解り易い。大味ではあるが、観ているあいだ充分に楽しませてくれる、という意味ではきちんと使命を果たした作品だろう。

関連作品:

007/ダイ・アナザー・デイ

007/カジノ・ロワイヤル

007/慰めの報酬

ハンテッド

チェ 28歳の革命

チェ 39歳 別れの手紙

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