『アバター』

『アバター』

原題:“Avatar” / 監督・脚本:ジェームズ・キャメロン / 製作:ジェームズ・キャメロン、ジョン・ランドー / 製作総指揮:コリン・ウィルソン、レータ・カログリディス / 撮影監督:マウロ・フィオーレ,ASC / プロダクション・デザイナー:リック・カーター、ロバート・ストームバーグ / スペシャリティ・プロップス:WETAワークショップ / シニア・ヴィジュアルエフェクト・スーパーヴァイザー:ジョー・レッテリ / ヴィジュアルエフェクト&アニメーション:WETAデジタル / 編集:スティーヴン・リフキン,A.C.E.、ジョン・フルーア,A.C.E.ジェームズ・キャメロン,A.C.E. / 衣装:マイェス・C・ルビオ、デボラ・L・スコット / キャスティング:マージェリー・シムキン / 音楽:ジェームズ・ホーナー / 出演:サム・ワーシントンゾーイ・サルダナシガーニー・ウィーヴァースティーヴン・ラングミシェル・ロドリゲスジョヴァンニ・リビシ、ジョエル・デヴィッド・ムーア、CCH・パウンダー、ウェス・ステューディ、ラズ・アロンソ / 配給:20世紀フォックス

2009年アメリカ作品 / 上映時間:2時間42分 / 日本語字幕:戸田奈津子

2009年12月23日日本公開

公式サイト : http://www.avatarmovie.jp/

TOHOシネマズ日劇にて初見(2009/12/22) ※前夜祭



[粗筋]

 ジェイク・サリー(サム・ワーシントン)は6年間に及ぶ低温睡眠状態での航海を終え、惑星パンドラに辿り着いた。

 元海兵隊員であり、負傷により下半身の麻痺したジェイクをこの地に招いたのは、資源開発会社RDAである。RDAは惑星パンドラの開発と、新発見された鉱物アンオブタニウムのために、“アバター・プロジェクト”を展開していた。それは、地球人と惑星パンドラの原住民“ナヴィ”双方の遺伝子を組み合わせて作りあげた肉体=アバターと、遺伝子の提供者である人間にリンクを作り、意識を送りこむことで、人間にとって極めて有害な大気組成であるパンドラでの活動を可能とし、ナヴィたちと円滑に交流することを目的とした計画であり、研究であった。

 本来、この計画に招かれていたのはジェイクの双子の兄であり、科学者であるトミーであったが、不慮の事故によりトミーは急逝、既に製造済であったトミーの遺伝子を元にした“アバター”を有効活用するべく、ジェイクに白羽の矢が立ったのである。

 グレース(シガーニー・ウィーヴァー)ら科学者チームは、アバターとのリンクの経験はおろか科学的知識も持ち合わせない元海兵の起用に苦い顔をしたが、採算を重視する現場責任者のパーカー(ジョヴァンニ・リビシ)は意に介さず、保安部門の責任者であるクオリッチ大佐(スティーヴン・ラング)は幸いとほくそ笑んだ。ナヴィの生活様式や、生き物の生態、植生を研究し理解したうえでの説得を旨とする研究者たちに対し、クオリッチ大佐たちは強引な“立ち退き”を密かに画策していた。クオリッチ大佐はジェイクに、交換条件として麻痺した脚の治療を約束し、内部情報を提供するよう求める。

 素体がトミーの遺伝子であったこと、海兵隊員として充分な訓練を受けていたことが幸いして、ジェイクは初めてリンクするなり、素晴らしい適合性を示した。彼はすぐさまグレース、ノーム(ジョエル・デヴィッド・ムーア)の野外調査に同行するが、しかしそこで野生生物を怒らせてしまい、ジェイクのアバターは遭難する。

 ジェイクは海兵隊時代の訓練を活かしてサヴァイヴァルに臨むが、夜が更けるとまた別の生物に囲まれてしまう。絶体絶命の窮地に、彼を救ったのは――

[感想]

タイタニック』での空前の成功以来、待たれていたジェームズ・キャメロン監督の最新作であるが、しかしあれから12年以上、彼は決してのんびりと過ごしていたわけではない。成功作のモチーフであるタイタニックの、深海に沈んだままの姿を捉えるなど、ドキュメンタリー作品を幾つか発表している。

 それらの作品を製作するにあたって、キャメロン監督は自らも参加して、新しい撮影機材を設計する、というところにまで踏み込んでいる。『アビス』で開発した水の表現方法を流用して『ターミネーター2』の独創的な敵キャラクターを創出し、『タイタニック』では記録を精緻に探って船内の姿を完璧に再現するなど、“見せ方”“捉え方”に工夫を凝らしてきたキャメロン監督らしい拘りである。

 久々のフィクション作品であり、3D方式対応の劇場で上映されることを念頭に置いた本篇でも、キャメロン監督はまず撮影機材や手法の開発から始めたのだという。それだけに、本篇の映像の作り込みはこれまでの3D映画と比べて桁違いに丹念であり、異様な迫力、説得力を備えている。特に何箇所か、カメラが焦点の被写体にズームインする場面があるが、あまりの質感に、実写ではないかと錯覚さえするほどだ。

 ただ、技術が優れ、映像が細部まで作り込まれているからと言って、映画そのものが説得力を備え、見応えのあるものになるわけではない。本篇に漲る圧倒的重量感の源は、尋常でないほどに細部まで練り込まれた世界観そのものだ。

 舞台となる惑星パンドラの、生き物の生態や植生、原住民ナヴィの生活様式に宗教、言語に至るまで、本篇は恐ろしいほど細やかに設定を構築しているのが窺える。いままで見たことのない、だが原理的に納得のできる、想像のできる範囲内で独創的に作りあげられた生物や植物の数々は、だからこそリアリティがあり、見ていて息を呑むような衝撃を齎す。

 実のところ、ストーリー自体にさほど意外性はない。低温睡眠の状態で長時間の宇宙旅行を経て辿り着く未開の惑星、先住民たちとの交流によって意識を変化させ、最終的に彼らに与する主人公、など大枠は設定を聞いた時点で想像した通りの展開を示す。

 また、本篇で用いられているモチーフの多くは、どこか宮崎駿監督のアニメーション作品を思い出させる。人間がマスクなしでは長時間耐えられない大気組成や、ナヴィが他の生物と意思疎通を行うために利用する触手状の部分を金色の柔毛のようにデザインしていることなどは『風の谷のナウシカ』だし、地球の企業が目をつける稀少鉱物アンオブタニウムと、その力で浮遊する聖なる山などはもろに『天空の城ラピュタ』と重なる。

 しかしいずれも従来とまるっきり同じ使い方をしているわけではなく、その設定に説得力を付与するために緻密な考証を重ね、補強していたり、ちゃんとストーリーのうえでの必然性を付与しているのが見事だ。酸素マスクがなければ生きられない、という設定は当然のように随所で活用されており、ナヴィが他の生物と触手を触れさせて意思疎通を行う、という概念は様々なかたちで応用され、物語の価値観や方向性に強い芯を通している。

 クライマックスでは一見運命論が世界を支配しているような展開に思えるが、その実、序盤でちらつかせた描写を敷衍すると、極めて自然な成り行きとも解釈できる。主人公が下半身麻痺のために歩けないことが、“アバター”の肉体を借りた生活への愛着を強めていることや、そうした借り物の肉体を経由してナヴィたちと関わっていることで抱いている罪悪感がクライマックス間近で一気に増幅されていくくだりなど、心理面でのドラマの築き方も巧い。物語作りの胆を完璧に押さえており、横綱相撲の趣さえある。

 シンプルだからこそ年齢や嗜好を問わず理解しやすい物語になっているうえ、感動を生むための細工も丹念であり、それらを支える世界観は堅牢で、繰り返しの吟味にも耐えうる強度を備えている。映画館で、しかも未だ少々値の張る3D方式の上映で鑑賞しても満足感を味わうことの出来る、堂々たる大作である。まだ3D方式で鑑賞したことがない、眼鏡をかけて観ることに抵抗がある、という人は、内容的に充実した本篇でいちど試してみるのもいいと思う――3Dでの上映技術は今後まだ向上する余地があるだろうが、内容的にもほとんど不満のない作品にお目にかかれる機会はそうそうないだろうから。

関連作品:

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ボルト

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コメント

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