『呪怨 ザ・グラッジ3』

呪怨 ザ・グラッジ3 [DVD]

原題:“The Grudge 3” / 監督:トビー・ウィルキンス / 脚本:ブラッド・キーン / 製作:アンドリュー・フェッファー、一瀬隆重 / 製作総指揮:ロイ・リー、ダグ・デイヴィソン、清水崇、J・R・ヤング / 撮影監督:アントン・バカルスキ / プロダクション・デザイナー:ボビー・ミハイロフスキ / 編集:ジョン・クイン / 音楽:ショーン・マクマホン / 出演:ジョアンナ・ブラッディー、ギル・マッキニー、池端えみ、ジェイディ・ホブソン、ボー・マーショフ、マリナ・サーティス、マシュー・ナイト、ショウニー・スミス、堀内亜依子、土屋神葉 / 映像ソフト発売元:GENEON UNIVERSAL ENTERTAINMENT

2009年アメリカ作品 / 上映時間:1時間30分 / 日本語字幕:種市譲二

2009年9月02日DVD日本盤発売 [bk1amazon]

DVDにて初見(2009/09/26)



[粗筋]

 シカゴの古いアパートで発生した一家連続殺傷事件で唯一生き残ったジェイク(マシュー・ナイト)は、錯乱状態と診断され、精神病院の一室に隔離されていた。盛んに「女が襲ってくる」という彼の言葉を、担当医のサリヴァン(ショウニー・スミス)たちは幻覚を見ているに過ぎないと捉えていたが、ある日、第三者の立ち入り出来ない病室内で、ジェイクは全身の骨をへし折られた無惨な状態で発見される……。

 あの事件以来、アパートは日を追うごとに閑散としていった。住み込みで管理人をしているマックス(ギル・マッキニー)はオーナーから「これ以上住人を減らすな」とプレッシャーを掛けられるが、対処する手立てはない。出来ることと言えば、珍しく入居希望でした観に来た女性を何とか捕まえておくことぐらいだった。

 下見と称してやって来た女性――ナオコ(池端えみ)には、しかし別の目的があった。東京で平穏な結婚生活を送っていた彼女は、佐伯伽椰子(堀内亜依子)の実の妹。彼女は、シカゴで発生した不可解な事件が、日本で非業の死を遂げた姉とその息子・俊雄(土屋神葉)の呪いであることを直感し、これ以上被害が広がるのを防ぐべくやって来たのだ。

 ナオコの危惧した通り、伽椰子の呪いは着実に拡大しつつあった。マックスと同居するふたりの妹、リサ(ジョアンナ・ブラッディー)とローズ(ジェイディ・ホブソン)を中心にして、アパートに関係する人々がひとり、またひとりと謎の死を遂げていく……

[感想]

 清水崇監督が自らの出世作をリメイク、日本人として初めてアメリカでの週末興収ランキングの1位を獲得、続けて手懸けた続篇でもトップを飾ることに成功したハリウッド版『呪怨』の第3作である本篇は、シリーズで初めて日本人でない監督が手懸けることとなった。

 製作にはこのシリーズの原点であるビデオ版から携わっている一瀬隆重氏が就き、清水監督自身も製作総指揮に名前を連ねているが、やはりこの変化は大きかったらしい。率直に言って、あまり好感の持てる仕上がりではなかった。

呪怨』シリーズは、作を追うごとに伽椰子と俊雄というふたりの“怨霊”が際立ち、超常現象を基本としたクリーチャー映画の様相を呈していったが、しかし根幹にあるのは日本の怪談である。風土にも依存するじめっとした手触りが特に印象的だが、音や虚仮威しめいた映像の極端な変化で生んだ驚きを恐怖と見せかけるのではなく、厭な想像を掻き立てるような間合い、間接的に描くことで生じる違和感を積み重ねていって、じわじわと恐怖を醸成していくのが本来のスタイルであり、それはハリウッド資本に移ったあとも変わっていなかった。

 だがやはり、日本にそれほど馴染みのない監督ゆえなのだろう、本篇ではこの間合いや独特のムードを充分再現できていない。冒頭、前作『呪怨 パンデミック』で唯一生き残った少年を襲う悲劇を描いたシークエンスからして、“何かがいる気配”をほとんど演出していないので、何やら唐突に変なことが起きた、という程度の印象しか残さない。関係者達が、事態に関わった密度を問わず犠牲になっていくのは従来通りだが、人物同士の縁をうまく活かしていないので、今度はこの人が危ない、という危機感、或いはどうしてこの人が、という違和感から来る薄気味悪さといったものも観る側で感じ取れず、結果として恐怖にも結びつかないのだ。

 怪奇現象のアイディア自体には、従来の方向性を敷衍したものが多く、なかなか見所がある。特にクライマックスでのある出来事は、これまでの『呪怨』の描写からするとあり得る現象なのだが、あれほど大きく扱ったのは今回が初めてだろう。そこに新たな趣向を添えているのも好感が持てる。

 しかし、いいアイディアであるにも拘わらず、やはり間の取り方の乏しさが引っ掛かる。そのうえクライマックスの大きな仕掛けは、現場の状況をよく考慮していないので、怖さよりもまず違和感を齎してしまい、失敗した印象のほうが色濃い。少しだけ具体的に記すと、あの場面で犠牲になる人物は、肝心のシーンより前にいちど1階上か下か、どちらかに移動しておくべきだったと思う。そうすれば、あの場面にあった大きな違和感を払拭することが出来たし、シリーズの原点に対する敬意としても機能したはずだ。いちおう最大のサプライズであるので、もっと丁寧に練って欲しかった。

 製作時にどんな駆け引きがあったのかは不明だが、2作目まで良好な興収を上げたにも拘わらず、本篇のバジェットは大幅に絞られ、舞台はシカゴと東京だが、実際の撮影をすべてブルガリアで行ったという。そういう悪条件のなか、セットやロケはきちんと前作までの雰囲気を押さえており、ハリウッドには珍しかった“怪談”映画の文法を守ろうと努力しているのは伝わる。

 初めて伽椰子に対して抵抗する手段を提示するなど、シリーズに新たな切り口を齎そうとした点も意欲として評価はしたい。しかし、ここで示される儀式に裏付けも必然性もなく、演者の立ち居振る舞いにほとんど説得力がないのは致命的だ。日本で今年製作された、オリジナルビデオ版の系譜にある新作『呪怨 黒い少女』のなかでも、怨霊に立ち向かうための儀式が描かれているが、あちらのほうが格段に説得力があり、物語の中でも有効に機能している。

 意欲はあっただけに、旧作のスタッフがもう少し丁寧に監修していれば良くなったのでは、と惜しまれてならない。DVDに特典として収録されている、如何にしてブルガリアでシカゴと東京を再現するか、の苦心惨憺ぶりを追ったメイキングはなかなかに楽しめるので、ある意味苦労は報われている、とも言えるのだが。

関連作品:

呪怨

呪怨2

THE JUON―呪怨―

呪怨 パンデミック

呪怨 白い老女

呪怨 黒い少女

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