『マーダー・ライド・ショー』

マーダー・ライド・ショー SPECIAL EDITION [DVD]

原題:“House of 1000 Corpses” / 監督・脚本:ロブ・ゾンビ / 製作:アンディ・グールド / 製作総指揮:アンドリュー・D・ギヴン、ガイ・オゼアリー / 撮影監督:アレックス・ポッパス、トム・リッチモンド / プロダクション・デザイナー:グレッグ・ギブス / 編集:キャスリン・ハイモフ、ロバート・K・ランバート,A.C.E.、ショーン・ランバート / 衣装:アマンダ・フリードランド / 特殊メイク:ウェイン・トス / 音楽:ロブ・ゾンビ、スコット・ハンフリー / 出演:シド・ヘイグ、ビル・モーズリイ、シェリ・ムーン、カレン・ブラック、マシュー・マッグローリー、アーウィン・キーズ、クリス・ハードウィック、エリン・ダニエルズ、ジェニファー・ジョスティン、レイン・ウィルソン、トム・トウルズ、ウォルトン・ゴギンズ、デニス・フィンプル、ロバート・ミュークス、ハリソン・ヤング、ウィリアム・バセット、マイケル・J・ポラード、ジェイク・マッキノン、ウォルター・フェラン / 配給&映像ソフト発売元:Art Port

2003年アメリカ作品 / 上映時間:1時間29分 / 日本語字幕:? / R-15

2004年8月14日日本公開

2005年1月28日DVD日本盤発売 [bk1amazon]

公式サイト : http://www.murderride.jp/

DVDにて初見(2009/06/18)



[粗筋]

 デニース(エリン・ダニエルズ)たち4人の若者は、アメリカ各地にあるユニークな名所を見つける旅に興じていた。

 ハロウィンを目前に控えたある晩、彼女たちは立ち寄ったガソリンスタンドで、猟奇的な殺人者たちの記録を残した、見世物小屋紛いの博物館を発見する。経営者であり案内人のキャプテン・スポールディング(シド・ヘイグ)が変人すぎて逆にネタにはなりそうもなかったが、彼から近所に実在したという殺人鬼ドクター・サタンの伝説を聞くと、彼の書いた地図を頼りに、ゆかりの地を訪ねようとした。

 道中、ヒッチハイクしてきた女性・ベイビー(シェリ・ムーン)を乗せつつ急いだ4人だったが、途中エンジンが止まってしまい、ベイビーの家に身を寄せる。デニースたちは気づいていなかったが、彼女たちはこの時点で既に、悪辣な殺人鬼の網にかかっていたのである……

[感想]

 2007年に製作、2008年に公開されたリメイク版『ハロウィン』がホラー愛好家から賞賛されたロブ・ゾンビの、長篇映画監督第1作である。

 もともとヘヴィ・ロックの旗手であった監督だが、アートデザインのセンスには定評があった上に、根っからのホラー映画愛好家であったという。実際、デビュー当初組んでいたバンドの名前は、ゾンビものの原点と言われる作品『恐怖城 ホワイト・ゾンビ』の原題から取っている。それだけにホラー映画の製作は念願のひとつだったようだ。

 本篇の雰囲気はまさにそういう、マニアならではの歓喜に満ちあふれている。悪趣味な博物館に奇矯な登場人物、凄惨な殺人シーンと、ホラー映画に魅せられる者が喜ぶ要素がこれでもか、と詰め込まれている。

 ストーリー展開も、ホラー愛好家ならニヤリとする部分が多い。旅の若者、ヒッチハイクの女、異様な意匠に覆われた家、とお馴染みのモチーフを立て続けに並べているのもそうだが、そこから予想される話運びを、いい意味でことごとく裏切っていくのだ。次はこう来るだろう、と思わせて一度外して、別の方向から脅威が訪れて凄惨なひと幕に繋がっていく、という具合に終始予断を許さず、すれっからしの観客でもちょっとした緊張を強いられる。

 ただ、あまりに間を外した演出や、モチーフの過剰さに対してヒネリが足りない、と思われる部分が多いせいだろう、テンポは全般にもたつき気味だ。90分足らずの理想的な尺に細かなカット割り、舞台の切り替えが行われているのに、若干冗長に感じられてしまう。唐突なイメージカットの挿入など、如何にもミュージシャンらしい、PVのような趣向が随所に見受けられるが、これも音楽が中心でない映画のなかにおいてはいささかリズムを狂わせる役割を果たしてしまったようだ。

 あまりにサイケデリックな美術や画面効果、ホラー愛好家にしてみればまだ生温い印象はあっても、普通の観客には充分残虐な暴力や殺人の描写などからしても、受け付けられる人は少ないだろうし、ホラー愛好家であっても自らホラー特有のガジェットを茶化しているように感じかねない作りは必ずしも評価するとは限らない。

 だが細部へのこだわりは紛う方無き職人魂を感じさせ、初めての長篇とは思えない整った仕上がりを示しているのは間違いない。演出のスタイルも完成されており、イメージカットの的確さや、異様なほど長い間の取り方など、いっそ文芸的とも言えるセンスがきらめいている。だからこそ続篇の制作が許されるほどの支持を集め、正統派の傑作『ハロウィン』にも結実したのだろう。今後ホラー映画のジャンルに多くの足跡を残す可能性を秘めた監督の第1作として、意義のある作品だと思う。……それでも趣向があまりにマニアックすぎるので、ホラーファンであっても是非観ろ、とはちょっと言い難いが。

関連作品:

ハロウィン

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