『ラスト・ブラッド』

『ラスト・ブラッド』

原題:“Blood the Last Vampire” / 原作:『BLOOD THE LAST VAMPIRE』(プロダクションI.G.) / 監督:クリス・ナオン / 脚本:クリス・チョウ / 製作:ビル・コン、エイベル・ナーミアス / アクション監督:コリー・ユン / 撮影監督:プーン・ハンサン,HKSC / 美術:ネイサン・アマンドマン / 編集:マルコ・キャヴェ / 衣装:コンスタンザ・バルドゥッツィ、シャンディ・ルイファンシャン / 音楽:クリント・マンセル / 日本版主題歌:GLAYI am xxx』(EMI Music Japan) / 出演:チョン・ジヒョン小雪アリソン・ミラーリーアム・カニンガム、JJフェイルド、コリン・サーモン倉田保昭 / 配給:Asmik Ace

2009年香港・フランス合作 / 上映時間:1時間31分 / 日本語字幕:松浦美奈 / R-15

2009年5月29日日本公開

公式サイト : http://lastblood.asmik-ace.co.jp/

TOHOシネマズ日劇にて初見(2009/05/29)



[粗筋]

 日本にあるアメリカ空軍関東基地で、惨劇が起きた。3人の在日米人が、1週間のうちに相次いで殺害されたのである。人智を絶した現場状況に、“組織”は“オニ”の犯行であると断定する。

 部外者の容易く潜入しづらい基地に“組織”が潜入させたのは、ひとりの少女――サヤ(チョン・ジヒョン)であった。アジア人特有の容貌にお下げ髪、セーラー服という出で立ちは異彩を放っており、却って級友達の注目を集めていたが、サヤはそんなことに拘泥する様子もなく、またそんな必要もなかった。

 サヤが転校してきたまさにその日、基地の最高責任者マッキー将軍のひとり娘アリス(アリソン・ミラー)が、クラスメイトとして潜伏していたふたりの“オニ”に襲われたのである。剣道部に所属するアリスは、顧問のパウエル(コリン・サーモン)に命じられてクラスメイトと共に居残りの特訓をすることになったのだが、まさにそのふたりが“オニ”であった。

 アリス絶体絶命の窮地に、サヤは素速く現場に駆けつけ“オニ”を仕留めるが、その現場を目撃したアリスの目には、サヤが同級生を問答無用で斬り捨てたようにしか映らなかった。

 サヤが“オニ”を討った痕跡は、組織の協力者であるマイケル(リーアム・カニンガム)らが始末していく。それでサヤの“犯行”を証明する手立てはなくなるはずだったが、アリスの証言と将軍の抱いた猜疑心とが、ほんの僅かに残されていた痕跡を見咎める。

 マッキー将軍が部下に命じて“サヤ”という少女と、CIA所属を名乗ったマイケルたちの背後関係を洗うなか、アリスはひとり基地を抜け出し、パウエルのあとを追う。何故、自分を襲ったクラスメイトたちと居残りの特訓を命じたのか――そう問い詰めると、パウエルは異様な台詞を口にした。

「これは戦争だ。自分たちの種族が生き残るか、お前たちの種族が生き残るかの」

 次の瞬間、付近に居合わせた人々の目が、赤く妖しい光芒を放って、アリスを睨みつけた――

[感想]

 日本のアニメや漫画の海外における評価は高く、幾つもの作品にリメイクや実写化の計画が立ち上がっている。頓挫してしまうものも多い一方、近年は実現にこぎつけて日本でも公開されるものが増えてきているが、生憎と日本人やファンの目から見て不満を覚えるものばかりか、原作抜きで独立した作品として鑑賞しても失敗している作品が目につくのが現実だ。

 本篇も残念ながら、どちらかと言えば失敗作に属する、と評価せざるを得ない。

 製作が日本で行われておらず、世界市場を念頭に置いて作られている以上、ロケーションが日本らしくないのは致し方ない。東京という設定なのにやたら大きく近く見える富士山であるとか、雑多すぎて在りし日の九龍城のように見える路地裏であるとか、看板のデザインが妙に偏っているとか、気になる点は多々あるが、そのあたりは決して否定材料にはならない――ツッコミどころとして楽しむことだって出来る。

 しかし、登場人物たちの行動が一様に不自然であったり、彼らの言動についてほとんど背景が明確にされていないのは、原作を踏襲しているか否かを除いても問題だろう。

 たとえば、ヒロイン・サヤがセーラー服を着ることになるのは原作から受け継いだものらしいが、日本の学校に潜入するならいざ知らず、米軍基地内の学校に潜入するにはあまりに目立ちすぎ、設定と矛盾を来す。組織内部でも何やら分裂が生じているように描かれているが、きっかけもなければその後の判断も何ら描かれていないので、途中からサヤの立ち位置すら不明瞭になってしまっている。だいたい、何故サヤと組織は結託しているのか、サヤはいったいどんな説明を受けて、彼らに協力することが自分の最終目的を果たすうえで役立つと判断したのか、きちんと明示していないのも気に懸かる。

 対する“オニ”側の行動も支離滅裂だ。欲望のままに行動しているなら解るのだが、作中の描写からするとある程度理性は保ったうえで計画的に立ち回っているように見えるのに、アリス襲撃の様子はあまりに無分別だ。そもそもどうしてあそこに潜伏していたのか、“種”としての狙いは何だったのか、それが解らないのだから、戦ったあとにもこれで決着したという印象が齎されずカタルシスに乏しい。サヤが最終的にターゲットとする人物にしても、何故あの場面で登場し、どうしてああいう形で最終決戦に持ち込んだのかほとんど意味不明だ。サヤとターゲットの因縁にしても、取って付けたような感しか与えない。

 映像としては非常に見応えのある作りとなっている。『レッドクリフ Part II―未来への最終決戦―』などを手懸けたコリー・ユンによるアクション・シーン、とりわけ路地裏を舞台にした大立ち回りは、サヤが圧倒的な強さを発揮しながらその戦い方に幾つものパターンを用意しており、実に盛大だ。終盤手前に登場する、サヤと最終ターゲットとの因縁を描く場面も、ちょっと大仰すぎて不自然なきらいはあるが、インパクトは備わっている。

 監督のクリス・ナオンは前作『エンパイア・オブ・ザ・ウルフ』で見せつけたヴィジュアル・センスを本篇でより先鋭化して、灼けたような色調で映像を統一、そこに舞い散る血飛沫を凄惨に美しく彩って、アクション・シーンの魅力を引き立てている。路地裏の決闘と較べると、アクションとしてのインパクトに欠く最後の戦いも、サヤの紺色のセーラー服と敵方の白い衣裳とをうまく対比させ、美しさを際立たせることで印象を深めている。少々CGの処理がぎこちない箇所が認められるが、それでも映像の仕上がりはいい。

 キャラクターを活かすべき背後関係の説明や人間性の描写を怠っているためにいまいち魅力を発揮しきれていないものの、チョン・ジヒョンが演じるヒロイン・サヤの雰囲気もなかなかだ。お下げ髪にセーラー服という、日本の古典的ヒロイン像に扮して戦う姿にさほど違和感を齎さない、という点は、海外で作られた映画であることを思えば賞賛するべきだろう。

 このように美点も見受けられるが、話作り自体に欠陥が多すぎて、全体の評価を大幅に損なっている。コリー・ユンが監修した激しいアクションと、特徴的なヴィジュアル、そしてセーラー服姿の少女が刀や美脚を振り回し敵を薙ぎ倒す姿が堪能できればそれで良し、と割り切ることが出来る方なら観ても損はないだろうが、たとえアクション映画でもある程度は筋が通っていなければ納得できない、とか設定が生み出す奥行きぐらいは必要だ、と考えている向きにはお薦めしない。

関連作品:

猟奇的な彼女

エンパイア・オブ・ザ・ウルフ

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