『ファウンテン 永遠につづく愛』

ファウンテン 永遠につづく愛 [DVD]

原題:“The Fountain” / 監督・脚本:ダーレン・アロノフスキー / 原案:ダーレン・アロノフスキー、アリ・ハンデル / 製作:エリック・ワトソン、アーノン・ミルチャン、イアイン・スミス / 製作総指揮:ニック・ウェクスラー / 撮影監督:マシュー・リバティーク,ASC / プロダクション・デザイナー:ジェームズ・チンランド / 編集:ジェイ・ラビノウィッツ / 衣装:レネー・エイプリル / 音楽:クリント・マンセル / 出演:ヒュー・ジャックマンレイチェル・ワイズエレン・バースティン、マーク・マーゴリス、スティーヴン・マクハティ、フェルナンド・フェルナンデス、クリフ・カーティス、ショーン・パトリック・トーマス、ドナ・マーフィ、イーサン・サプリー、リチャード・マクミラン、ローン・ブラス / 配給・映像ソフト発売元:20世紀フォックス

2006年アメリカ作品 / 上映時間:1時間37分 / 日本語字幕:戸田奈津子

2007年7月14日日本公開

2008年6月6日DVD日本盤発売 [bk1amazon]

公式サイト : http://movies.foxjapan.com/fountain/

DVDにて初見(2009/05/21)



[粗筋]

 医学者のトミー・クレオ(ヒュー・ジャックマン)は、脊髄に出来た腫瘍の影響で日一日と感覚を奪われ死に近づいていく妻イジー(レイチェル・ワイズ)を救うために、連日サルを用いた実験に没頭している。

 だがイジーは病に我が身を蝕まれながら、それ以上に夫が自分から目を背けていることを悲しんでいた。イジーは彼の離れている時間、ノートに小説をしたため始める。世界中に版図を広げつつあるスペインの女王が、謀反により窮地に立たされ、彼女を信頼する騎士に“不老不死の秘薬”を入手させようとする、中世を舞台にしたファンタジーであった。

 妻の本当の想いを察することも出来ないまま、トミーは研究を繰り返す。その過程で若返りの効果が認められる成分を発見、上司にあたるリリアン・グゼッティ教授(エレン・バースティン)はその方面で研究を掘り下げようとするが、妻の治療に効果があるとは言えない、とはねつけた。

 しかし、そうしているあいだにも妻の病状は進行し、ふたりして博物館に赴いた日、イジーはその場で昏倒する……

[感想]

 一見複雑極まりないのだが、肝心なストーリーを切り取ろうとすると、実はこのくらいしか書くことがない。オープニングで描かれる中世風の場面と、神話のようなSFのようなシークエンスがどのように繋がっていくか、を描くとネタばらしになるのと同時に、観た私個人の解釈のほうが色濃く出てしまうので、粗筋で書くには適当ではないのだ。

 いちおう設定は細かく用意されているようだが、ほとんどの出来事を明確な説明抜きに並べているので、手触りはどうしても抽象的になる。とりあえず中世風のエピソードはどうやら妻イジーの書いた物語をなぞっているらしい、と解るのだが、これも終盤に来ると微妙に印象が違ってくる。神話風のエピソードに至っては、いったいどのあたりに位置づけていいのか、話が終わってもはっきりとしない。きちんと生真面目な説明や決着を求めるが、自分から解釈するのは好まない、という向きはきっと「わけ解らん」で終わらせ、本篇の記憶自体消してしまうに違いない。

 本篇の面白さは、描かれるものを受け身で感じるのではなく、能動的に表現を拾い、解釈していくことにこそあるように思う。そう考えていくと、極めて解り易い明確な象徴が無数に鏤められ、各々の舞台にて異なった形で扱われていること自体に強い関心を抱くはずだ。特に“指輪”や“傷=病”を巡る表現の重なり方は、それぞれの時代における主人公の、愛する者への想いの示し方が少しずつ異なっていることを示しながら、うまく各人の意識をリンクさせている。

 他方で、具体的な背景が見えてこなくても、表現一つ一つが感動的であれば素直に同調できる、というタイプの人は、却って本篇を抵抗なく受け入れられるかも知れない。あまり背景に触れずとも、各々の舞台で主人公がどんな想いを抱き苦しんでいるのか、それ自体はとても伝わりやすく描いていることと、主人公のそんな感情の機微を、ヒュー・ジャックマンが芯の通った、しかし時代ごとに微妙な差違をつけて巧みに演じているからだ。

 医学者が妻の、傍目には奔放に思える言動に苛立つ姿や、理不尽な要求も甘んじて受ける騎士の凛々しい佇まい、そして愛する者の存在を追い求めながら何処か諦めているかのような僧形の男の穏やかさ。それぞれがクライマックスで見せる表情が胸に迫ってくるのは、ヒュー・ジャックマンの役者としての魅力と力量に負うところが大きい。

 CGを利用して絢爛と作りあげられた舞台の上で華々しく繰り広げられたクライマックスのあとには、逆に意表をつかれるくらいにシンプルな映像で幕が引かれる。その直前、ふたつのエピソードの締め括りと較べるとあまりに物足りなく感じられるが、しかし本篇の主題を“愛する者を失う運命をどうやって受け入れるか”という点に絞れば、これほどしっくり来る結末もない。いずれ何らかの形でエンドマークをつけねばならないのなら、これ以外に潔い終わり方はないのだ。

 ラヴ・ストーリーであると感覚的に、素直に受け入れるのもひとつの見方だと思う。ただ、感情的な部分も含め、自ら踏み込んで解釈することを楽しめる人にこそ向いた作品であろう。手法として癖が強すぎるので人に薦めるには悩んでしまうのだが、表現自体は完成され、奥行きもある、優秀な映画であることだけは保証する。

関連作品:

ナイロビの蜂

オーストラリア

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