『裏ホラー』

『裏ホラー』

監督:白石晃士 / プロデュース:一瀬隆重 / 出演:三輪ひとみ高樹マリア清水崇 / DVD発売:GENEON ENTERTAINMENT

2008年日本作品 / 上映時間:1時間10分

2008年11月21日DVD発売 [amazon]

公式サイト : http://www.urahorror.com/

渋谷シアターTSUTAYAにて初見(2008/11/07) ※イベント上映



[概要]

 2008年夏、渋谷や新宿などの街頭ビジョンにて発表されたのち、各種動画サイトにアップされ、携帯電話によって連鎖的に知名度をアップしていった、短篇ホラー連作――それが『裏ホラー』である。

 決して心霊や、衝撃的な映像を撮ることを企図せず、それぞれ異なった理由で撮影されながら、何らかの突発的な出来事を捉えてしまったために表沙汰にされなかった映像、というものが世の中には存在する。そうしたものを発掘し、プライヴァシーを尊重しながら、映像に刻まれてしまった“衝撃”を初めて世に問う、というシチュエーションによって、このシリーズは統一されている。名前を知ったら呪われてしまう、という祠を取材した女性タレントの危難を捉えた『呪いの祠』ナポレオンズが出演したバラエティ番組収録中に発生したアクシデントを収めた『スプーン曲げ』、飲み屋で偶然に見つけた女性の奇妙な行動の顛末『手を振る女』など、撮影の契機は違えど、それぞれに衝撃的な出来事をカメラに収めている。

 街頭ビジョンなどでの発表後、展開された公式サイトには、一定期間おきに新作がアップされ、最終的に9篇が公開された。だが、既に充分ショッキングなこれらの映像以外にも、様々な事情からネットに出すことが出来なかった映像があるという。前述の『呪いの祠』で災難に見舞われた女性タレントを、友人でもある三輪ひとみが訪ね、追跡取材を行う『追跡取材!呪いの祠』、大ヒットとなった和製ホラー映画『呪怨』に登場するあの少年によく似たおじさんが潜んでいるという廃墟をレポートしに行った高樹マリア清水崇監督が遭遇するその“正体”『トシオさん』、そして霊能者が少女の呪いを解くまでの一部始終を追った『呪術!紙人形』の3篇である。

 2008年11月21日に、この未公開の3篇も含めた全12篇を収めたDVDのリリースが決定しているが、それに先んじる11月7日、渋谷区円山町にある映画館にて、“最終解禁”と銘打ち、たった一度きりの劇場での上映が行われた……

[感想]

 公式サイトでは謳っていないが、調べてみるとこのシリーズの監督は白石晃士という人物が担当している。オカルト好きの人気を博し現在もシリーズが継続している『ほんとにあった!呪いのビデオ』に携わり、2005年には長篇『ノロイ』を発表している、いわば擬似ドキュメンタリー・タッチによるホラー映画の第一人者と言える名手だ。そういう人物が手懸けているだけに、ある意味オカルトやホラー映画好きのツボを巧く捉えた作品ばかりが集まっている。

 但し、それは誰にも等しく“恐怖”を齎すものではない。意表をつく展開によって誘うおぞましさが見せどころとなっている作品もあるが、オカルトならではの奇妙な手触りを示した作品も多数含まれている。そして、そうした作品はしばしば恐怖よりも笑いを誘うものだ。オカルトに馴染んでいるものであれば承知している事実であるが、不慣れな方は戸惑いを覚えるだろう。下手だから笑いを誘うのではなく、むしろリアリティがあるからこそ、なのだ。

 ネット配信などによる短篇をバラバラに鑑賞しているだけでは気づきにくいそういう本質は、だがまとめて鑑賞するといっそう明瞭になってくる。とりわけ、今回私が鑑賞したイベント上映においては、3篇ごとに司会者が登場して「これは本物です」というお約束を強調した挙句に、初めて公開される3篇の直前では公式サイトにおいて仕掛け人として名前を刻んでいるプロデューサーの一瀬隆重氏が登場、1篇ごとに上映を止めて、その裏事情を説明する、という体裁を取った。この説明が、実に巧く、笑えるものになっていたのだ。

 このイベントで初めて解禁された3篇は、それぞれにネット配信が行われなかった事情、というものが設定されている。巧妙なのが、いずれも実際にありそうな、間抜けさ加減とギリギリの薄気味悪さを備えている点だ。『トシオさん』は正直、本篇からして笑いどころばかりだったが、『追跡取材!呪いの祠』は聞いたときは笑ってしまうものの、冷静に事実として解釈しなおすと不気味な背景が語られるし、『呪術!紙人形』に至ってはオカルト、というより伝奇物に馴染んでいる者にはなるほどと頷ける理由が語られる――でもそうしたらスクリーンで公開するのも危ないんじゃあ、という気はしたが、むしろそのあたりを敢えて曖昧にするのもまた擬似ドキュメンタリーの面白さであり、製作者はそれを百も承知で手懸けていることが窺えるのだ。そうした背景について、後日発売されるDVDでどの程度触れられるかは定かではないが、たぶん映像の存在した『トシオさん』についてぐらいは言及があることだろう。ご覧になる際は、そのあたりも含めて愉しんでいただきたい。

 ただ、こうした観点からもあまり評価できない点があるのも指摘しておかねばなるまい。いちばんの問題は、怪奇現象を扱っているからこそ押さえなければいけない、物理法則や科学的に証明されている部分にやや配慮が足りていないことだ。こと、『襲われたアイドル』というエピソードでグラビアアイドルを襲う出来事は、かなりの高確率で現実には起こりえない。だからこそホラーなのだ、という言い方も出来るが、しかしこのエピソードの場合、焦点が報告者の異様さや、因果応報とも言える成り行きにこそ意味がある描き方をしていることを思うと、やはり思慮不足は否めないだろう。

 また、全般にCGの仕上がりが良くないことも気になった。これも『襲われたアイドル』がいちばん目立っていたが、公開済の『謎の肉玉』や、新たに解禁された作品でも、主旨は別として、映像的には少々引っかかりを覚えるものがあった。

 しかし、この程度はご愛敬というものだろう。様々なシチュエーションを押さえ、それぞれで異なる決着やサプライズを考案する意欲と、それを楽しませようとする意識は評価できる。その特徴や欠点ゆえに楽しみ方や、受け入れられる人が限られてきてしまう、というレベルに留まってしまっているのは残念だが、スタイルの提示としての役割は充分に果たした連作である。

 ……それにしても、清水監督はあんな登場の仕方で大丈夫なんでしょうか。ある意味素敵でしたが。

コメント

タイトルとURLをコピーしました