『秘密結社鷹の爪 THE MOVIE II 〜私を愛した黒烏龍茶〜』

監督・脚本・キャラクターデザイン・録音・FLASH・編集・声の出演:FROGMAN / 音楽:manzo / 主題歌:the HOOSiERS『Goodbye Mr.A』(Sony Music Japan International) / 声の出演:ホンマキョウコ、オタマジャクシ、亜沙、滝口順平野沢雅子銀河万丈 / 制作スタジオ:蛙男商会 / 配給:DLE / 配給協力:東宝

2008年日本作品 / 上映時間:1時間38分

2008年05月24日日本公開

公式サイト : http://www.takamovie.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2008/06/05)



[粗筋]

古墳ギャルのコフィー 〜12人と怒れる古墳たち〜

 都立古墳高校に通う四隅突出型墳丘墓のダニエルが、阿武隈さんちの盆栽を割ったかどで逮捕、裁判員法廷にかけられた。どーでもいい事件に12人の裁判員たちの意欲も殺がれる中、ダニエルの幼馴染みで前方後円墳のコフィーちゃんが彼を救うために、現代社会の病弊を抉る! ……のか?

秘密結社鷹の爪 THE MOVIE II 〜私を愛した黒烏龍茶

 アパートにひっそりと居を構え、“人に優しい世界征服”を志す秘密結社鷹の爪団。今回はレオナルド博士に戦闘ロボを開発させ本格的な行動に乗りだそうとした総統だったが、ちょっとした発音ミスで葬儀屋よりも丁寧な別のものにされてしまい、挙句乗り込んできた宿命のライヴァル、デラックスファイターにあっさり一蹴され、また敗走を余儀なくされる。

 しかし勝利したデラックスファイターに、やがて思わぬ災厄が降りかかる。自身のブログに、書き込んだ覚えのない強盗団との示談金交渉の記事が掲載されたことをきっかけに彼の著作権商品を扱う会社の株が大暴落、Mr.Aと名乗る謎の人物にあっさり乗っ取られてしまう。

 その一件を知った総統はネットの力を痛感、これをうまく利用すれば低予算での世界征服も夢ではないと考え、実行に移す。だがそこで鷹の爪団は例のMr.Aと遭遇、危険人物と見做され狙われる羽目に。たまたま近くにいたサイバー犯罪特捜同好会のメンバー・美津子の協力でどうにか助かったものの、この日を境に日本企業は一気呵成にMr.Aによって買収され、社会は深刻な状況に陥っていく。

 誰もが幸せになれる世界の構築を夢見る鷹の爪団として放置するわけにはいかない――だが、瞬く間に日本企業はその大半がMr.Aに乗っ取られ、総統たちは身動きが取れなくなる。唯一の光明は、戦闘員・吉田くんの郷里であり、資産価値がないと判断され、最後までMr.Aに買収されず残された日本の辺境、島根県

 かくて一同は拠点を島根に移し、地元民との結託のもと起死回生を期したのだが……

[感想]

 TOHOシネマズ系列ではしばらく前から、プログラム上映前に流される、携帯電話の使用禁止などのお願いを盛り込んだマナームービーに、この鷹の爪団のショート・フィルムを用いている。最近主に利用しているのがこの系列館であるため、私にとってはすっかりお馴染みの代物となってしまい、昨年の時点ではさして関心がなかったのにいつの間にやら愛着が湧き、とうとう劇場版本編を観る気になってしまった。公開前夜に地上波で前作が放映されていたので録画予約し、仕事のついでではあるが鑑賞してきちんと予習する周到ぶりである。

 ……しかし、基本的にそう気負って鑑賞するものでもない。何せ、もとはFLASHを用いたショート・ギャグの体裁を取っているものであり、少人数での制作を前提としたシンプルなデザインに少ない作画枚数、そして笑いを取るのに効果的な不条理ネタが中心である。どちらかと言えば緩さを楽しむためのそうした前提は、2本立てでちょっと誤魔化しているとはいえ『コフィー』の約30分、『鷹の爪』の60分程度の尺があってもやっぱり緩い。絵そのものに派手な変化がないために、どうしても観ていてだれてしまう。

 だがその実、完璧に飽きてしまうことがないのは、うまいタイミングで伏線を回収して生み出す笑いの呼吸の巧さや、随所に盛り込まれたアイディアのユニークさ故である。前作でも『鷹の爪』パートに用いていた、その時点での製作費の残量を示す“バジェット・メーター”なる素材に、作中ほぼ無駄なシーンを挿入し、その間に劇場の暗がりを利用して同行者に何か告白するように促した“告白タイム”をふたたび採用したほか、新たに退屈しのぎの“リラックス・タイム”という部分を用意する、映画館で上映される作品であるという大前提を活かしたユニークな趣向がふんだんに盛り込まれている。前作をテレビで鑑賞した際、「これを本気で利用する奴っているのかー!」と馬鹿笑いしてしまった告白タイムでは何と本当にプロポーズして結婚に漕ぎつけた馬鹿幸せ者がいたそうで、今回の同じシチュエーションで当の2人の肖像を盛り込むという趣向まで用意してくすぐってくる。

 そして、一見適当・大雑把に見えるギャグを時間差で再利用したり、どうでもいい描写を思わぬところで反復することで笑いを取るといった、長尺だからこそ出来る笑いのツボの突き方が実に巧い。戦闘ロボの話があとあとあんな風に活きてくるとは序盤で想像も出来ない一方、たぶんこれはこうだろう、と察知できるくらいお約束の部分もちゃんと回収するあたりに強い安心感が滲んでくる。

 前作と立て続けに観ていると、更に気づくことがある。いい加減に話を進めているように見えて、際立った設定については決して無視をせず利用する一方で、旧作でネタやオチとして使われている事実については意識的に避けるよう工夫していることだ。前提を匂わせることで新規の観客を旧作に誘うとともに、そういう人達の興を削がない配慮がなされているのである。そういう配慮が行き届いているからこそ、ギャグを挟みつつもしばしば深みのあることを言わせても説得力があり、説教臭さを押さえたうえで作品そのものに奥行きを齎しているのだ。

 贅沢な声優陣をどーでもいいところに起用してみたり、他方で一般から公募した声優5000人をワンシーンで消化したり、と無茶苦茶さも際立っているが、ゲテモノを志しつつもその狙いには誠実で、完成度は極めて高い。緩ささえきちんと狙いすましているあたり、さすがに高い人気と本格的な評価を得るだけのことはある、と感じた。

 ……でもやっぱり劇場で観るほどのものかはちょっと微妙だが。確かに告白タイムとかの趣向は劇場ならではだが、やっぱり線の太く雑さを強調した絵はお茶の間、いや寧ろやはりPCのモニター上で肩の力を抜いて味わうのがいちばん相応しい気もする。

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