『ウィッカーマン』

原題:“The Wicker Man” / 監督・脚色:ニール・ラビュート / オリジナル脚本:アンソニー・シェイファー / 製作:ニコラス・ケイジ、ノーム・ゴライトリー、アヴィ・ラーナー、ランドール・エメット、ジョン・トンプソン、ボアズ・デヴィッドソン / 製作総指揮:ジョージ・ファーラ、ジョアン・セラー、トレヴァー・ショート、アンドレアス・ティースマイヤー、ジョセフ・ローテンシュレイガー / 撮影監督:ポール・サロッシー,B.S.C.,C.S.C. / 美術:フィリップ・バーカー / 編集:ジョエル・プロッチ / 衣装:リネット・マイヤー / 音楽:アンジェロ・バダラメンティ / 出演:ニコラス・ケイジエレン・バースティン、ケイト・ビーハン、フランセス・コンロイモリー・パーカー、リリー・ソビエスキー、ダイアン・デラーノ、マイケル・ワイズマン、エリカ=シェイ・ゲイアー、アーロン・エッカート / サターン・フィルムズ、エメット・ファーラ・フィルムズ製作 / 配給・映像ソフト発売元:Sony Pictures Entertainment

2006年アメリカ作品 / 上映時間:1時間42分 / 日本語字幕:村田恵

2007年09月01日日本公開

2008年01月23日DVD日本盤発売 asin:B000YIASSW

同日Blu-ray Disc日本盤発売 asin:B000YI7VQY

Blu-ray Discにて初見(2008/05/05)



[粗筋]

 ある日、ぬいぐるみを落とした母子に拾って届けたところ、目の前でトラックによって二人の車が跳ね飛ばされる、という現場を目撃してしまったエドワード・メイラム(ニコラス・ケイジ)は、以来二人の姿を繰り返し幻覚に見るようになり、しばらく休暇を取る。そんな彼のもとに、かつて婚約まで漕ぎつけながら、忽然と姿を消した恋人ウィロー(ケイト・ビーハン)から消印のない手紙が届いた。実は彼女には娘がいるのだが、それが行方不明になったのだという。ウィローは現在、生まれ故郷である個人所有の島サマーズアイルにいるが、恐らくそこからは出ていないはずなのに、誰も彼女を知らないという。

 助けを求める手紙に、自分が死なせてしまった母子の記憶を重ねたエドワードは、休暇を利用して島へと赴いた。日に一度、荷物を搬入しているという飛行機に便乗して潜入すると、そこは異様な空気に満ちていた――外界と交流を断ち、ほぼすべてを自給自足で賄う。女性達はいずれもシスターと呼び合う一方で、男達は蔑まされているようだった。

 まったく歓迎されぬ空気のなか、娘――ローワンの捜索を始めるエドワードだったが、やはり島民たちは非協力的だった。それどころか、ローワンという娘の存在さえ否定する始末で、かつての恋人ウィローでさえも、衆目を気にしてか曖昧な言動を繰り返す。

 それでも懸命に調査を続けていくと、エドワードは次第に、島の中に蔓延る特異な価値観に気づいていく。そこから導き出される答は、とてもおぞましいものだった。

 果たしてローワンは何処にいるのか。そして島に隠された秘密とはいったい……?

[感想]

 1973年に製作された同題のカルト映画を、『ベティ・サイズモア』のニール・ラビュート監督・脚色、ニコラス・ケイジ製作・主演でリメイクしたものである。オリジナルは製作から四半世紀を経てやっと日本で公開された曰く付きのものだが、生憎私は未見である。オリジナルの出来はさておき、本篇について言えば――正直予想通り、かつあまり出来のいいシナリオとは言い難い。

 すれっからしの目からすると、本篇の仕掛けはかなり早い段階で察しがついてしまうが、その程度は問題ではない。見通しがつこうと、そこまでの道程がスリリングであったり、最後まで観る側を惑わせるような作りであれば賞賛に値するが、本篇はほぼ真っ直ぐで、他にあり得ないのだ。加えて、そのための細工が全般に拙い。終盤の台詞からするともっと様々な仕掛けがあるか、逆に小細工がなく真相を仄めかす要素に接するぐらいが適当のはずなのに、中途半端に策を弄した挙句、明らかに余計なことをしてしまっている。仕掛けに対する準備や、補強するための行動にあまり蓋然性が認められないのである。

 他方で、主人公であるエドワードに関する描写にもあまり必然性か認められないのが気に懸かる。冒頭の出来事や中盤の幻覚症状、それらを繋ぐ彼のアレルギーという要素が、芯となる謎にほとんど絡むことなく、それを膨らませる役も為していないのはさすがに拙いだろう。キャラクターを膨らませる役割は果たしているし、ちゃんと利用してはいるが、しかし弱点として用いている以上の印象がない。

 ただ、雰囲気作りはかなり良かった。序盤からの謎めいた雰囲気、島に着いてからの、何も起きていないにも拘わらず漂う緊張感、古典的ながら忌まわしさを強調する美術の数々。特に養蜂のための蜂の巣や、クライマックスに登場する物の異様さは出色だった。

 オリジナルの配役などと比較すると、どうやら本篇では女性上位の閉鎖社会に造り替え、その会話などに他の社会と異なる価値観をより色濃く匂わせる工夫をしているようだ。そうした考え方は悪くないのだが、如何せんミステリーとして眺めたときに、仕掛けを覆い隠す、或いは誤認させるための構造が弱い。そのあたりにもう少し繊細な脚色を施していれば、かなりインパクトの強い作品に仕上がっていただろうに、と惜しまれる1本だった。……まあ、率直に言えば、劇場で観ていたら、ソフトを購入はしなかったと思う。

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