『ウォーター・ホース』

原題:“The Water Horse Legend of the Deep” / 原案:ディック・キング=スミス『おふろのなかからモンスター』(講談社・刊) / 監督:ジェイ・ラッセル / 脚本:ロバート・ネルソン・ジェイコブス / 製作:ロバート・バーンスタイン、ダグラス・レイ、バリー・M・オズボーン、チャーリー・ライオンズ / 製作総指揮:チャールズ・ニューワース / 撮影監督:オリヴァー・ステイプルトン,B.S.C. / 美術監督:トニー・バロー / 衣装:マーク・ワーナー / 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード / 出演:エミリー・ワトソン、アレックス・エテル、ベン・チャップリンデヴィッド・モリッシーブライアン・コックス / 配給:Sony Pictures Entertainment

2007年アメリカ作品 / 上映時間:1時間52分 / 日本語字幕:戸田奈津子

2008年02月02日日本公開

公式サイト : http://www.waterhorse.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2008/02/02)



[粗筋]

 1943年、第二次大戦終盤に差しかかった頃のスコットランドネス湖の畔に暮らすアンガス・マクマロウ少年(アレックス・エテル)はある日、湖で一個の奇妙な“石”を発見する。汚れをこそげ落とすと美しい色彩の覗くその“石”に惹かれたアンガスは、貝殻と共にそれを家に持ち帰った。

 その日の夜、物音に気づいて、“石”を置いた父の工房に入っていったアンガスは、そこに割れた“石”と、奇妙な生き物とを発見する。細長い首に、手脚が鰭のかたちをした、見たことのないそれを、アンガス少年は“クルーソー”と命名する。最愛の父が戦争に赴いてから未だ戻らず、孤独を託ち笑うことの少なくなっていた彼にとって、それは唯一友人と言える存在になっていった。

 しかし、時を同じくして、アンガス少年の身辺は俄に騒がしくなる。海に繋がったネス湖からドイツ軍の潜水艦が侵攻してくる可能性がある、としてハミルトン大尉(デヴィッド・モリッシー)率いる部隊が現地に派遣され、アンガスの母アン(エミリー・ワトソン)が管理する屋敷を宿舎として使用しはじめたのだ。

 そんな騒ぎの中、クルーソーは異常な速度で成長を続け、すぐに工房のドラム缶の中で飼える状態でなくなってしまった。更に、父の出征後アンガスが守っていた工房は、アンの命令で、新たに屋敷に雇われたルイス・モーブリー(ベン・チャップリン)に与えられてしまう。仕方なく、しばらく風呂場にクルーソーを隠していたアンガスだったが、すぐに姉のカースティ、ついでルイスに見つかってしまった。

 二人とも秘密は守る、と約束してくれたものの、ルイスは湖に帰すべきだ、と忠告する。最初こそ従わなかったアンガスも、瞬く間に成長を遂げ、もはや庭の噴水にさえ隠しておけなくなった姿を前に、渋々承諾する。

 斯くして、クルーソーネス湖の住人となった。後日、アンガスが恐る恐る訪ねていくと、広い空間と無尽蔵のエサ場に放たれたクルーソーは更なる成長を遂げ、既にアンガスを背に乗せて湖を奔放に泳ぎ回れるほどになっていた。以来、アンガスは人目を忍んでクルーソーに会いに来るようになるが、巨大な生物の存在は、間もなく街の中でしばしば噂されるようになり、やがてアンガスはおろか、湖に帰すよう忠告したルイスでさえ予想しなかった事態に発展する……

[感想]

 本編は、誰しもいちどは眼にしたことがあるであろう、スコットランドネス湖に首を突き出す姿を捉えた写真をきっかけに世界的に話題となったUMA、“ネッシー”を題材としている。

 長い時間を経て、あの写真は捏造ということで現在議論は沈静化しているが、しかしネス湖において目撃談は他にも存在したこと、またある時期を境に証言がぷっつりと絶えている、という点から、写真は偽物でも該当するUMAは実在した、という解釈でその背景を描いているわけだ。

 率直に言えば、そういう馴染み深い事実を素材としている点を除けば、“少年が未知の生物を発見して育てる”という児童文学などに頻出するモチーフの応用に過ぎず、本編はその定石からほとんどはみ出していない。秘密の発生と発見、協力者の登場に、未知の生命体であるが故に齎される問題と軋轢、そしてスペクタクルを経て、決着。あまりにお約束通りであるため、何らかの目新しさであったり、企み抜いた異色の展開を期待しているとかなり失望することは否めない。ケルト伝説を下敷きに、“ネッシー”の実在する可能性を謳っているわりには、やはり本質的にファンタジーで、子供の関心を惹こうとするようなシンプルな筋書きになっている点にも不満を抱く向きは多いだろう。

 しかし、もともとそういうものだ、と承知していれば、極端な裏切りをせず、タイミングを計って物語を構成している本編は、かなり純粋に楽しめるはずである。内容が教科書的ながら、細かいところで決して手を抜いていないので、ありがちな不均衡やツッコミどころがほとんどない。メインとなる少年の心理の描き方、周辺の大人達の不誠実ながらもしばしば滑稽な言動、ルイスとの関係の匙加減などなど、物語の展開に奉仕する各々の要素も決して過剰にならず、節度を保っている点でも好感が持てる。

 何より、巨大なUMA、というモチーフを中心にしている以上、最も興味を惹かれる部分――“クルーソー”がアンガス少年を背にネス湖を所狭しと駆けめぐる場面に充分な力が注がれているのがいい。一度離ればなれとなり、再会した直後でネス湖を上へ下へ、自由自在に駆け回る姿と、クライマックスの窮地で繰り広げられるアクションなど、CGと承知していても胸がときめく。冒険を含んだファンタジーと割り切って、そうした部分を疎かにせず丁寧に描いている点こそ、本編の真骨頂であろう。

 お約束に満たされた作品であるだけに、最終的には悪人もほとんどおらず、締め括りでさえ予定調和なのだが、それさえも清々しさに繋がっている。大人でさえ少し童心に返ってしまうような、優秀なジュヴナイルと言えよう。

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